第4話
こちらの世界の男は生きることイコール戦闘と言うほど、戦争ばかりを繰り返すサガを持っているらしい。そして、女性はまるで正反対の性質を持っているようだ。
「あたしたち女はさ、これまでバカな戦争などやめなって、再三、男たちに申し入れてきたじゃないか。でも、男なんてそんなもん聞くわけないんだよ」
ルエラは男手が足りない事を理由に上手く話を持って行く。すると市場の女たちは口々にそんなことを話しだした。
「そうそう、どこの国の男もいくさだ、戦争だ、とか言って殺しあいばっかりさ。だからあたしたちは不安だったのよ…」
そのうちにこの報いがあるのでは、と、女たちが心配していた矢先。
すべての国で男子が生まれなくなった。
それからいくつか年月が流れ。
兵士としての男が減っていく現実。
そんなになっても男たちは、戦闘用アンドロイドまで開発して、性懲りもなく戦争を続ける。そのうちに機械が自分で自分の修理を行うようになり、人間がいなくても勝手に闘いを続けるアンドロイドだけが残っていく。制御が難しくなったロボットは、とうとう戦場だけでなくまわりの街までをも襲いだした。
驚いた女たちは反撃を試みたが、彼女たちが持つアンドロイドは、女性が担当して開発した建築物の修復用や防御用がそのほとんどを占めているので、とても太刀打ち出来ない。
そうやってどんどんまわりの国が滅びていった。
さすがにこれでは駄目だと思ったこの国の留守を預かる王妃が、戦場にいる国王と連絡を取り合いながら、街の回りに高い壁を張り巡らせ、ロボットの侵入を防御した。
しかし、生き残った人間は、200~300人ほど。しかも男はほとんどいない。
こうなれば、もう先は見えている。どうせ絶滅していくのなら、穏やかに楽しんで終われればと、彼女たちは思っていた。
「そんな時にあの扉が現れたんだったねー」
「そうそう、そのうえ、乳母さまがひどい病気で気弱になられたときに、遺言だと言って、とんでもない事実を打ち明けたからさ」
「なんでしたっけ?」
「あの次元の扉がさ、何十年か前にも一度開いたことがあるって」
「そうだよー、そいでさ、王妃様のお姉さまってのが、とんでもなく勇気のあるお方でさ。乳母さまのほかに何人かお供を連れて向こう側の視察に行ったんだって」
「すごいよねぇ、女の鏡だよ」
しかし、視察に行った現王妃の姉とお供のうちの何人かが戻ることはなかった。
その理由というのが…
「乳母さまの言うにはさあ、向こう側の男ってのがもう、とんでもなく優しいんだって?」
「きゃーそうそう。こっちのヤツらとは全然違うんだそうだよ。そりゃあ男は男だから、争いはするけど、やみくもに戦争ばかりしてるような男はいないって、だ・か・ら」
「姉様たちは向こうの男と」
「恋に落ちたんだよね~」
「!」
キャアキャアと興奮しながら話す彼女たちは、ルエラの驚く顔に気づく様子もなくおしゃべりを続ける。
「そいでさ、そいでさ。姉様は男の子を産んだんだって!お供の子たちも何人かね!」
「姉様のお子なら、王族の血を引いてるじゃないか」
「ああ、これで私たちの一族が完全に滅びることはなくなったね。それだけでもう充分だよ。お供の産んだ子は、この間から向こうに調査に行ってたロボットが、何人か見つけたから。あとはその跡継ぎ様が見つかればねえ」
「うんうん!一度でいいからお顔が見たかった」
なんと言うことだろう。次元のひずみは今に始まったことではなかったらしい。
だが、これでこの間から何人かが引き込まれた事件の謎が解けたことになる。
彼らはエス(と呼んで良いものか)の血を引いているのだ!
この間の画像で涙を落としていた彼は、その現実をいきなり突きつけられ、そして動揺しショックをうけたからだろう。
その時、どかどかと走る足音が近づいてきて、息を切らせた女性が大声で叫ぶ。
「大変だよ!姉様の忘れ形見が見つかったって!しかもまたこっちへ引き込んだんだって、ダメだって言ってるのにねぇ、あの悪魔ってやつは!でも、今回はちょっとやったーって感じかな?でね、そこの屋外スクリーンにもうすぐお顔が写るんだって!」
それを聞いていた市場の女たちは、キャーキャーと大騒ぎだ。ルエラと姿を消したままの魯庵も思わず振り返ってスクリーンに目をやる。
「わあっ素敵な方!」「イイ男だねー」
「!」
しばらくして映し出された映像を見て二人は言葉をなくす。
そこにいたのは、気を失っているのか眠らされているのか、寝台に横たわる璃空の姿だった。