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第1話


 翌日、璃空たちチームの指揮官は手塚 (てづか)リーダーから招集を受けた。今後の対策を話し合うためだ。

 手塚リーダーと言うのは、バリヤのすべてのチームを総括・指揮している、その名の通りリーダーだ。だが年齢は璃空たちより少し上なだけでそう変わらない。

 璃空は昨日のうちに、映像からわかった悪魔の件をメールで手塚リーダーに送っておいたのだが、会議の前に少し話がしたいと言われて、彼の執務室に向かっていた。


 執務室に行くためには、まず秘書室を通らなければならない。

 手塚のように多忙な立場になると、日常の細かい業務にまではとても手が回らない。そのため、何人かの秘書が輪番の持ち回りでその業務を執り行っている。


「おはようございます。新行内指揮官」

 ああ、今日の日勤は柚月だったな。

 璃空は今朝、同じ部屋から先に出勤し、今にこやかに自分を迎えてくれている柚月をあらためてながめる。

 そうなのだ。怜の付き添いで面接室に入った柚月を、ちょうどその頃秘書をさがしていた手塚リーダーに推薦したのは、なにを隠そう璃空だった。


* * *

 あの日、一般公募の会場で。


 面接室で次の候補者を待っていた璃空は、三人もの人間が次々入ってきたので少し驚いていた。すると、手書きであわてて書いたようなメモが渡され、次の候補である怜が、一人で入るのは嫌だとごねたことがわかる。

 やれやれ、こんな依存心の強い人物はどうかと思ったが、面接をしないわけにも行かない。


 そう思って三人を観察する。

 真ん中に座ったのが本人らしい。なぜだろう、こちらを見る眼がこころなしかキラキラしている?

 そして両隣には女性が二人。

 右隣の女性は、どうすれば他人から自分が一番可愛く女らしく見えるか、計算し尽くした座り方や態度をとっている。自分ほどのルックスがあれば、男はみんな言うことを聞くと思っているようなタイプだろう。

 対して左隣の女性は、キチンと椅子に腰掛けて、少し落ち着かない様子なのは、たぶん無理矢理真ん中の彼に連れてこられたのだろう。けれどその目は心配そうに彼を見守っている。


 対照的だな。

 そう思いながら面接を始める。なるべく堅苦しく。重苦しい雰囲気を出すように。

 すると、五分もたたないうちに、右隣の女性がそわそわし出した。そして甘えるような声で言う。

「あのお、すみませぇーん」

「何か?」

「わたしぃ、ちょーっと用事を思い出しちゃったの。なのでぇ、もう出ていってもいいですかぁ」


 すると、真ん中の彼はホッとため息をついて、

「いーよー、ルーシー。もう大丈夫だから」

と、脱力した声で言った。

 それを聞いていた左隣の女性も安心したようで、「あ、それなら」と椅子から立ち上がって丁寧に頭を下げながら言う。

「あの、イレギュラーな事をして申し訳ありませんでした。あとはよろしくお願いします。じゃあ私も出ていくわね。頑張ってね、神足くん」


 すると、神足と呼ばれた男があわてて椅子から立ち上がり、彼女の手をつかんで、

「今澤ちゃんはいてくれなきゃやだよー。ねえー」

 と駄々をこねる。

「え?でも‥‥」

 困ったようにこちらを見るので「いいですよ、彼もああ言ってますから」と苦笑いして答える。

「いーんじゃない?柚月はいてあげればー。怜の保護者みたいなもんなんだから、ねっ。それじゃあ私は皆と先に帰ってるねー。ごめんねぇ、怜」

 と彼の肩に可愛く手を置いて、にこやかに部屋を出て行った。


 ドアが閉まったとたん、彼は「ふえーっ」と大げさに息をついて、椅子に沈み込みながらしゃべりだす。

「やーっと出て行ってくれた。あ、すみません。ルーシーの奴、きっと面接官のことどこかで見かけたんですよ。それで無理矢理ついてきて。面接官がイイ男だから、お近づきになろうって魂胆ミエミエだったでしょ?」


 ヘラッと笑いながら言う顔は、最初の印象とははずいぶん違う。そして、左隣の彼女を見ながら楽しそうに言う。

「だってさ、もともと俺がきてほしかったのは、今澤ちゃんだけだもん。あんな奴に聞かせたくない話もありますよね。へへ。じゃあ、ちゃんとした面接を始めましょうか?新行内さん」


 そう言いながら挑戦的にこちらを見る彼。どうやらこちらの意図がわかっていたようだ。

 右隣の彼女が興味本位で面接に参加しているのがわかった璃空は、わざと堅苦しい話ばかりをして、退屈させるよう仕向けた。

 案の定、こんな面接など面白くない上に、面接官はどうやらガチガチの堅物で取り付く島もない様子。それがわかった彼女は、早々に退散していったと言うわけだ。


「君はなかなか面白い人だね。最初はただ依存心が強いだけの軟弱野郎かと思っていたよ」

 少しくだけた口調で言うと、彼はまた目をキラキラさせて言う。


「うわ!それって褒めてくれてるんですよね?」

 あまりにもそれが嬉しそうなので、思わずうなずくと、

「やっぱ俺の思った通りの人だ~新行内さんって!。カッコイ~!ねえ?そう思わない、今澤ちゃん。今澤ちゃんにどうしても本人を見て欲しくて、一緒に入ってもらったの。あ、すみません。俺は神足 怜と言います。新行内さんの事は、CMで見て知ってました!今日のもあれを見てきたんですよ~」

「あんなコマーシャルで、よく来る気になりましたね」

「そんな謙遜しないで下さいよ~。新行内さんほんっとカッコ良かったんだから」


 璃空のどこをどう気に入ったのか、怜は璃空の事をそのあともほめちぎる。照れることこの上なかったが、ふと彼の隣で苦笑いしながら話を聞いている人がいるのに気が付いた。

「あ、放っておいて申し訳ありません。今さらながらですが、今日の面接を担当している、新行内 璃空と言います」

「いえ、こちらこそ。断り切れなかったとはいえ、面接に付き添いがいるなんてびっくりなさいましたよね。私は彼と同じ会社に勤めている、今澤 柚月と申します」


「今澤 柚月さん?」

「はい」

「柚月‥‥綺麗な名前ですね。それでは、あらためて」

 そして本格的な面接を始める。


 怜はさすがにトップセールスマンだけの事はある。こちらの意図を先読みする頭の回転の速さはハンパではない。身体的な能力だけではなく、頭脳戦でもすぐ現場に適応できるだろう。


 そして、怜の面接をしながら、璃空は柚月からも目が離せないでいた。

 常に控えめでありながら、絶えずまわりに気配りを忘れない。それが意図してではなく自然に出来るのだ。

 しかも聡明そうで、面倒見が良さそうで。怜の方が少し後輩らしく、彼女のことを頼りになる先輩として信頼しているのが良くわかる。

* * *


 その時の印象が強く残っていたのだろう。リーダーに、秘書ができそうな人、誰かいないかな~?と言われたとき、思わず柚月の名前を出してしまっていた。





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