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攻略状況

説明回、かな

 戸締りを確認し、簡単な準備をしてから出発する。俺の家を出て十数分。ミンの詠唱する移動用風魔法とユウナのフィールド移動速度上昇のエンチャントをフルに使い、俺達は、目的地の近くまでやってきていた。「うわ、魔法のスキルがこんなに成長してるっ!」と、遠回しにおまえの家は遠いんだとミンに言われた。


 そんな言葉を聞かないふりをして、ふと空を仰ぐ。そこで目に入るのは、とてつもなく巨大な一本の樹だ。

 《生命樹》という名のグランドダンジョンとしてそびえたつそれは、樹とは言っても枝葉などは無く、とてつもなく太い幹がはるか高くまで伸びていっているようなものだ。

 そこには自然らしい美しさは無く、なにか得体のしれないものが潜んでいるという未知の恐怖を俺たちに植え付ける。大きさはどれほどだろうか。酔狂な者たちが挑戦はしたらしいが、幹の太さからしておよそ木とは思えないほどであったために、詳しい数値は出なかったらしい。


 そのダンジョンの入口は幹の根元に転送ゲートとして存在しているのだが、俺たちはそこではなくそのお膝元にある大都市アインへと足を踏み入れている。

 「こっちです」と俺たちを先導して歩くユウナについていき、まるで迷宮ダンジョンのように複雑かつ広大な都市を進んでいく。この世界に来て結構な時間が経過したはずだが、未だに俺一人では都市を出ることすら自信がない。


 すでに夕食は済ませている。ユウナの紹介してくれた店はどうやらNPCではなくプレイヤーが営む店だったようで、味は最高。店主も渋格好良い親父さんだったため、俺もすごく気に入った。

 しかし、すごく奥の路地に店が存在していたため、一人で行ける自信がない。また今度、連れて行ってもらおう。情けなくも、そう決意した。

 そして俺たちは、いつのまにか中央広場へと出ている。そのままその大通りを上りの方向に真っ直ぐ進むのでついていく。

 そして、《生命樹》が近づいたなぁ、と思えるほど歩いた時、


「着きました。ここです」

「「……」」


 ユウナがなんでもないように、しかし内心友だちを招いたことに嬉しさを感じているような声を出して自宅をお披露目した。が、俺とミンはそれを見て、呆れ返っていた。

 振り向いたユウナの背後に建つ建物とその建っている場所を見回す。そして何か言おうと口を開いて、


「「高級住宅……」」


 心底羨ましそうに、呟いた。

 いやおまえは攻略組としての蓄えがあるだろう。そうミンに言おうとして、そういえばコイツは下町の雰囲気のほうが好きだと言っていたのを思い出す。

 再び呆れた視線を目の前の一軒家を見て、いいなぁ、と呟く。住宅自体はそれほど豪邸というわけでもなく一人暮らし用の小さめのものだったが、建てられている場所は『解放軍』本部にほど近い、最も土地が高い区域だったのだ。

 もちろん、俺にこんな所に来る用事など、今までなかった。


「そんな風に見ないでください……ほら、案内しますから」


 呆れた視線に気づいたのか、ユウナが苦笑を見せて俺たちを家に招き入れようとする。それにほんの少し気後れしたが、


「おっ邪魔っしまーすっ」

「……はぁ、じゃ俺も」

「いえいえ、お邪魔なんかじゃないです」


 元気なミンになんだか馬鹿らしくなり、玄関をくぐる。それを見たユウナがやけに嬉しそうにしていたのが、印象的だった。

 玄関から入って、靴を脱ぎ、居間へと入る。そこには趣味の良い調度品がちょこちょこと置かれていて、住人のセンスの良さを感じさせた。俺は思わず感心の声が漏れる。


「へぇ……綺麗なんだな」

「そ、そうですか?」


 調理器具揃う立派な台所に入ったユウナが、なぜだかどもる。その目がチラリチラリと居間の端に設けられた物置へと向かっているのを見て、俺は察した。後で開けてみようと思う。

 そのまま周りをへぇとかほぅとか何かの評論家のようにじっくり丹念に舐め回すようにいや言い過ぎた。とにかく一通り見て、すごいなぁ、と羨ましそうに呟いた。俺の稼ぎでは、棚に置かれたドロップ品かなんかの水晶だけで破産しそうである。

 それにしても……。


「へぇ~! すごいお家だねっ。持ち家っぽいけど、いくらぐらいかかったの?」


 俺の疑問と同期するようなミンの質問に、ユウナはさらっと答える。


「大体……一億、です」

「「一億ぅっ!?」」


 それだけあれば一般住居区域で家が二十は買える。本当に、負け惜しみも出ないほど羨ましかった。







 それから俺たちは雑談に興じた。

 ユウナはパンケーキ調理を進めながら話に混ざっている。ユウナとミンの二人からは攻略組の様子やマイブームを聞き、俺からは武器についての情報を教授した。新しいダガーが《竜の牙》という鍾乳洞ダンジョンから掘り起こされたと言う話をしたとき、ミンが食いついてきたのが面白かった。


「ミンちゃんはどうしてダガーなんです?」


 前から気になっていたのか、すらっと出たそんなユウナの疑問に、ミンはえへへと笑った。俺は同時に困ったような顔をする。


「ここがゲームだった頃に、レンが最初に作ってくれた武器なんだよ。『おまえにはこれぐらいが良い』って」

「武器は振り回されるものじゃなくて振り回すものだからな。ミンぐらい小柄だと、ダガーぐらいしかないと思ったんだよ」


 それからミンはダガーの扱いを修練し、補助用に魔法を覚えてみれば、これが大当たり。ミンの集中力は、あっという間に自身を《銀閃》と呼ばれるまでに成長させていた。

 そして、デスゲームとなった今、その力は遺憾なく発揮されているらしい。敵を翻弄し、ダメージを与える。その動きの良さに、パーティへの勧誘が途切れないとか。何故ソロでいるのかという疑問は、七不思議のように扱われているらしい。

 パーティとは、チーム戦が出来る最小の団体単位だ。最低二人から組むことができ、それを一つの行動単位として扱われることが、この世界での常識となっている。また、そのパーティが複数出来た大人数の団体をユニオンと言い、『解放軍』や『愚者の盾』が最も有名といえるだろう。

 パーティはその場の設定でなんとでもなるために意外と便利らしく、ユウナとミンも二人で即席パーティを組んで狩りをするのが常だ。


 俺はそこまで想起して、ふと、ユウナの顔を見ると、なんだか膨れていた。そのまま俺と目が合う。


「私の弓も、新調してください」

「いやいや、おまえのそれ、ドロップ品の『古代(エンシェント)武器(ウェポン)』だろ? それを超えるのはさすがに無理だって」


 古代の人間が天使を倒すために作り上げた天下無二の品、という設定の古代武器。そんなレア物の内一つを所有しているのはユウナだ。それと俺が作ったあのチート矢。二つが合わされば、一人で二十レベルぐらいまでなら無双できるのではないか。

 ユウナほどの腕があればあながち不可能じゃないという所が、また恐ろしい。

 俺の答えに不満なのか、笑顔を見せないユウナ。なんだかそれが嫌で、俺は話題の転換を試みた。


「ところでさ、ユウナ」

「はい」


 話題の転換に気づいたのか、潜めていた眉を元に戻してから俺の方を向く。本当に聡い子だな、と思った。


「八階で攻略が止まってしまったらしいな。どんな状況なんだ?」


 前々から気になっていたこと。ミンでは「こんな感じで……こうなんだよっ!」と言語能力に不安がありすぎて聞けなかったため、この機会に聞いてしまおうと思ったのだ。

 それを察したのか、ユウナは人差し指を立てた。


「まず大きいのは、敵レベルですね」

「レベル? 三十じゃないのか?」


 《生命樹》は一~三階までは最高五レベル、それから一つ上がるごとに五レベルずつ上がっている。おおよその敵レベルは予想できてしかるべきのはずだ。

 しかし、ユウナは困ったように笑う。


「それが……ダンジョン中の敵は今までどおり三十ほどなんですけど、ボスのレベルだけが、四十になっているんです」


 俺は驚きに目を見開いた。

 通常、FOの敵レベルは強さを表し、自分の戦う相手の目安となる。しかし、ボスだけは別で、集団戦を想定しているためか同じ三十レベルでも強さには五レベルほどの差が出るのだ。

 それがレベルからして四十になってしまっているとすると、それはかなりというよりもべらぼうに困難なことだ。

 一レベル上がっただけでも、回復アイテムなどの万全の準備をしてから望むようなこの世界で、一気に十レベル以上上の敵と戦う。


「時間、かかりそうだな」

「はい……」


 少ししんみりとした空気。それを気にしていないように、俺は口を開いた。


「それで?」


 ユウナは先程、まず大きいのは、と言った。そう言うからには他にも何かあるのだろう。

 俺が促すと、ユウナの顔が悔しさにわずかに歪む。それでも美しさを失わないことに感心するKYな自分を叱咤し、俺はその言葉を聞いた。


「……天使が、出て来ました」


 ついにか。

 俺は、そう思った。


「九階からと決めつけていましたけど……」

「もう、来たか」

「はい……」

「ボクも手合わせしたけど、強かったよ」


 一流のナイフ遣いであるミンが言うなら、それはかなりのものだろう。実際、攻略組の進行が遅い理由は、その天使がかなり大きいようだった。

 俺たちの目標は、《生命樹》の最上階にいる天使長を倒すこと。これまでのフロアボスも天使をかたどったモンスターだったが、ユウナの言う天使というのは恐らくMobとして出てきたのだろう。


「《死神(ヌン)》、《恋人(ザイン)》、《(ペー)》と言う名前の三体です」

「大アルカナか」

「はい」


 それなら他にも個体がいるということになる。そして同時に、それらに違いがないと名前が違ったりはしないだろう。

 俺の聞きたいことを察して、ユウナは説明を続けた。


「《死神》は、三回に一回武器破壊を繰り出してきます。《恋人》は《魅了(チャーム)》を持ってて、《塔》の防御力は重装備のランス遣いも苦戦するほどです」


 武器破壊の攻撃を武器で受けようものなら武器は一撃で壊れる。《魅了》は、耐性が低ければ男性プレイヤーの動きを妨げ、ふらふらと対象の方へと歩き出してしまう。どちらの場合も、そこを狙われれば致命的だろう。そして重装備のランスが貫けない壁は、他の武器でも同様ということだ。

 これでは決定的な有効打がない。


「それは厳しいな……」

「武器破壊は気をつければいいし、《魅了》も女性プレイヤーには効かないようなのでなんとかなるんですけど……《塔》は厄介です」

「だよなぁ……」


 俺はそう言うと、ウィンドウを開く。そのままなんともなしにアイテムストレージを整理する。

 あれ、いつのまにか『立派な骨』が九十九個になってた。帰ったら取り出さないと。


 ……新たに現れた天使三体。弱点をうまく突けばいいんだろうが、そんな技術を持ち合わせたプレイヤーなど、この世界に何人いるだろうか。


「その三体に気をつければ、なんとかなるといったところですけど……その後にボスがいるから」

「四十だもんなぁ」


 攻略組は結構手詰まりのようだった。



ユウナとミン。どちらが好きか、メッセージでお聞かせください!今後のストーリー展開に関わります!

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