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これこそ《錬成鍛冶師》

 目を向けると、そこには目を見張るほど美しい少女がいた。


「今、大丈夫ですか?」

「おう。来たか」


 入ってきたその人物に片手を上げて俺が挨拶をすると、向こうもにっこりと会釈を返してくる。ちょっとした知り合いだ。

 ポリゴンから成るはずのこの世界であってもなお艶やかな黒の引っ詰め髮。大きくくりっとした瞳に小さな口。そしてその身に纏う銀鏡のような軽鎧。

 十人が見れば、特殊な性癖の持ち主以外の九人が美少女と形容するような、そんな少女が南の外れにひっそりと建つ俺の店に訪れている。彼女は、本当はこんな所には近づかないほどの有名人だ。


「あ、ユウナちゃんっ……ってそうか!」

「やっと思い出したか」


 やれやれと肩をすくめ、俺はアイテムストレージから飲用ハーブを取り出すと、ティーポットに入れた。続いてお湯を注ぐと、蒸すのを待つ暇なくハーブティが出来上がる。


「ほら、そんなとこで立ってないで。そこの肘掛け椅子使っていいから」

「はい。ありがとう」


 相変わらず美しい微笑みを浮かべる彼女に、あまり免疫のない俺は顔面の血の巡りが良くなる。慌ててハーブティをカップに注ぐと、ついでにミンの分も合わせて出した。


「わぁ、美味しそうです。これで今日も無事でいけそうですね」

「こんなのでいいならいつでも淹れるさ」


 俺がハーブティを出したのにはきちんと理由がある。ハーブによるステータス補正、主に耐性系を期待してのことだ。これからユウナとミンが二人で狩りに出かけるというのが、前々から入っていた用事だったのだが……ミンは忘れていたようだ。


 《戦巫女》のユウナ。そう広く知られる彼女は、攻略組の核である『解放軍』内で隊長、副隊長に続く主力メンバーであり、特殊職業スキル《付加師(エンチャンター)》の第一人者である。そして、さらに《武芸者》でもある。


 《付加師》とは、RPGお馴染みの強化の一つ、エンチャントを行使するための職業スキルだ。自分の味方の武器や攻撃に一定時間、属性やステータス強化を付け加えることが出来る。


 攻略には重宝され、またその容姿から一部では神聖視すらされているらしい。傍から見ると気苦労が絶えなさそうで、実際もそうであるらしい。

 そんな彼女は、同じ攻略組として仲良くなったミンと息抜きにたまにこの店にやってくるのだ。

 そして、この時が俺にとっても稼ぎ時だったりする。


「んじゃ、今日のは?」

「これで出来るだけお願いします」


 ユウナがそう言ってストレージからゴトゴトと店のカウンターの方に次々とアイテムを置いていく。赤鉱石、樹の枝、人食い鳥の尾羽根……


 ユウナの主要武器は弓矢である。それを踏まえて、どんな感じにできるかな、と出てくる素材を見ていくと、ふと、ユウナの手が止まった。

 彼女はふふっと俺の方を見上げてくる。


「ん? これで全部か?」

「いえ、次で最後です」


 やけにもったいぶるな、とのんびり思っていた自分を、俺は取り出された最後の素材を見てぶっ飛ばしてやりたいと思った。


「最後は、これです!」

「……? ってうぉっ!? 『月の欠片』っ!?」

「え、うそっ!?」


 胸を張ってユウナが取り出した素材に俺は目を剥く。近くのソファで沈んでいたミンも、その素材の珍しさに近くに寄って来ていた。


 『月の欠片』。グランドダンジョン『生命樹』にしかドロップしない超レアアイテム。錬成の素材として使えば、完成品に一つだけチートのような効果が付く。


「これを使って、矢を?」

「はい。レンくんなら腕は確かですから」


 そんな信頼の言葉をもらって、俄然俺はやる気が湧いてきた。


「よっしゃ、任せてくれ。他の矢があるんだったらもう狩りに行ってもいいぞ」

「いえ、待ってます。作らせておいて自分だけ、なんてのは嫌ですから」


 意外とはっきりとした物言いのユウナに苦笑しつつ、「じゃ、しばらく待っててくれ」と俺は集められた素材を持って、奥の鍛冶場へと引っ込んだ。

 と、その前に一度振り返る。


「ミン、軍人様に失礼のないようにな」

「やめてください……恥ずかしいです」

「ほらーっ。さっさと行きなよーっ」

「へいへい」


 追い出されるようにその場を後にし、俺は鍛冶場の炉と向かい合うように腰を下ろす。手に持つ素材を一度ストレージにしまってから、スキル《錬成》を発動させた。

 指定する形に矢形を選び、それに合わせて赤鉱石と樹の枝を変化させる。すると、微火属性の鏃を持つ弓矢がポンと出来上がる。


 『火の矢』。

 属性武器は『火』、『炎』、『紅焔』というふうに、名前からおよそ三段階に強さが分かれている。よって今できあがった物は最下級のものである。


 そして、これからが俺の、《錬成鍛冶師》の本領だ。

 出来上がったばかりの『火の弓矢』を加工台の上に乗せる。そこに取り出すのは『人食い鳥の尾羽根』と、『つなぎ石』。それらを、《錬成》スキル起動させっぱなしで弓矢と《錬成》していく。


 鳥の尾羽根を、矢羽として取り付ける。これによって、矢に設けられた最長飛距離がぐんと伸びただろう。精密さの方にも少しは補正がついているかもしれない。

 続いて、つなぎ石を熱してから赤鉱石の上に被せるように加工していく。これで、矢自体の貫通力が上がったはずだ。後は、切れ味を上げるため、回転砥石で緻密に削っていく。


 ここが、《錬成鍛冶師》の長所であり、短所とも呼べる特徴だ。

 職業スキルとしての鍛冶師は、プログラムに定められた回数だけ金属インゴットを鎚で叩けばそれだけで武器が出来上がるのに対し、《錬成》しか使わない俺はそんなシステムアシストは一切ない。ただ、元となる下級武器を練成し、それを元に強化していくことしかできないのだ。


 けれどもそれは、俺にしてみれば利点としか言いようが無い。

 《鍛冶師》の完成させた武器は、耐久値回復用の修理コマンドしか完成後は遂行できないが、それに比べて俺の場合は、切れ味強化の砥石掛けやら、錬成による細かい補強、その他様々な加工を施せるのだ。それを利用しているため、俺の店は切れ味がかなりいい武器が売りとなっている。


 それでも武器一つに時間をかけるのも馬鹿馬鹿しい、という意見が専らの見解で、デスゲームと化した今でも《錬成鍛冶師》でいる物好きは、おそらく俺だけだろう。


「ま、俺も《錬成鍛冶師》が専門じゃないけど」


 それはさて置いても、高い集中力が高じて武器の評価は高い。このまま俺はこの世界から早く出るために、武器を作り続けることになるだろう。

 俺は鏃部分を炉から出し、鎚で形を整えてから砥石に掛ける。キィンと心地よい音がなるとそれも終わりにして、軽く布で拭ってからその表面をタップして、情報を見る。


 『火の矢+7』。

 驚いた。素材が良かったのか、いきなり進化しやがった。


 矢は、一本を加工するとそれが武器として認識されるために、同じ物が百本セットとして扱われる。そのため加工も一本分で良く、ユウナの矢を請け負えるのもそれが理由だ。

 この時点で俺は満足していた。一般的に出回っているのは精々『+4』ほどまでなのだ。属性は最弱だが、ユウナの場合はエンチャントがあるために、それもマイナスとはならないだろう。


 そして今回の錬成の目玉。

 俺はストレージから一点のアイテムを取り出す。薄桃色の燐光を淡く放つ三日月型をした手のひら大の素材アイテム『月の欠片』。


 俺はやや緊張しながら、それを作業台に置き、《錬成》スキルをアクティブに、対象として『火の矢+7』と『月の欠片』を選択する。


「……《錬成》」


 少し震える声でそう言うと、システムが作動し、対象が淡く光る。

 そのまま対象がひとつになる様を、俺は見続けていた。



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