示された力
瞬きの後には、既にアルヴァに近づいている。
ブンッと音を立てて振るわれる剣を首だけで躱し、そのまま左手の銃をアルヴァの右腕に向ける。そのまま引き金を引く。
放たれた銃弾は狙い通りには行かず、地面を穿つ。それに舌打ちしつつ、俺は前を向く。アルヴァは盾で既に前面を隠そうとしていた。
ここで俺は右手の銃を右外側から盾を迂回して突きつけた。
「もういっちょ、もらった」
言って、放とうとする。
そのときだった。
「《忍ぶる牙》」
突如異常な速さで動いた彼の盾が俺の右手を払いのける。そのまま銃を手放すことはないものの、予想外の力に完全に右手が弾かれた状態だ。
なぜ。
そう思った時には、アルヴァの“突き系AM”が開始していた。
先程まで盾があった場所に、真っ直ぐ構えられた剣。
盾で俺の攻撃を妨げたのは、二次的なものに過ぎなかったのだ。
「まず……ッ!」
俺は直感だけで右膝を曲げ、その方向に倒れこむ。その脇を淡い光を放つ剣突が通り抜けていった。しかしそれはわずかに掠っていたらしく、俺のHPが数目盛り分、削られる。
俺はすかさず反撃を目論む。しかし、アルヴァもそれでは終わらなかった。
「《弧月》」
背筋に冷たいものが走るのを感じる間もなく、俺はバックステップ。俺の鼻先を掠るように、アルヴァの横一閃が抜ける。直後、続けて発声される技名。
「《瞬突》」
横に凪いだ不安定の状態から、人間的にありえない無理やりな動きで立て直し、彼が今度は突進系のAMを繰り出してくる。その動きはゲームシステムにアシストされ、ただ突くよりは、速い。
一度獲得したAMは、使い放題らしい。それを連続で使い続けるスタミナにも目を瞠るものがあり、魔法のようにゲージとスタミナを消費するAMを、アルヴァは完全に使いこなしていた。
思わず突進を横に飛んで躱す。見た目の猛烈なスピードから体勢が崩れると踏んで、俺はすぐさま銃を構えようとする。
そのときには、アルヴァが次のAMを発動し、俺の目の前で上段に構えていた。
突進のAMを新たなAMで上書きキャンセルしたのだと、後に知る。しかし、今ここで考察する余裕はなかった。
振り下ろされる鈍色の武器。
赤いエフェクトが、俺の肩口から吹き出す。
俺は、この世界で初めて人に斬られた。
激烈な痛みを感じたと思えば、AMの補正だろうか、俺の身体は面白いように吹っ飛んだ。俺は空中で身を捻り、アルヴァから離れたところで着地。HPは三割ほども削れている。
それを見て、遠くからアルヴァが言う。
「表情が変わらないね……無痛症かい?」
「失礼な奴だ」
暗に人相の悪さを言われた気がして顔をしかめる。アルヴァはそれに謝罪を示した。俺がそれを受け入れると同時、彼は再び脇構えに剣を構えた。
直後、彼は再びこちらに突進系AMを使用する。
数多のAMを連携させ、隙をなくす。理想だが、とてつもなく高い技術。
それは、まさしくこの世界での力。
この世界最強の遣い手。
それを思うと、俺は思わず笑みが零れた。異常な威力を秘めた突進が迫るのを、真正面から見据える。そして、
俺は、アルヴァの突進を受け止めた。
耳障りな音を立ててぶつかり合う互いの得物が火花を放ち、削り合い、やがて止まる。そのまま俺たちは動かずに、相手を、強敵を見据える。
アルヴァが、口を開いた。
「やっと、来たね」
剣に力を込めてくる。攻撃判定を持った互いの得物が再び火花を放つ。そしてそれは俺の持つ得物の“剣鍔”に降り掛かっては消えた。
「刀……それが君の本物だったね」
アルヴァの言う通り、俺は今、刀を握っている。
俺が最も得意とする武器。
俺が最も使用した武器。
俺が最も信頼する武器。
――俺が最も、嫌いな武器。
それでも俺は、目の前の懸命な青年に応えるために、刀を握る。
ああ、本物だとも。そう応えるために。
この男を、倒す。
俺はそれだけしか考えない。それだけしか望まない。それだけしか見ない。
やがて、口を開く。
「――行くぞ」




