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お願いと戦闘と…?

レンの戦闘(笑)です! 結構伏線を張ったつもりなので、それを思いながら読んでいただけると幸いです。

 数日後の昼間。この日は『解放軍』の活動も休みらしく、ユウナが遊びに来ていた。

 彼女の服は『解放軍』で定められた白銀のものではなく、動きやすい布繊維の上下に、軽鎧を防具としたものだった。ついでに言うと、それはミンと同じで、そもそもミンの勧めで決めたスタイルらしい。

 同じような格好をした二人が、俺の店の扉を開きつつ振り返る。


「それじゃ、狩りに行ってくるけど……」

「おう、行ってこい。そしてあわよくばレアドロップ品を俺によこせ」


 ユウナが作ってくれたステータス微補正付きの肉と野菜の串焼きを平らげた後のことだ。今日も今日とて天気がよく、二人は腕を鈍らせないよう狩りに行く予定となっていた。

 二人を見送る俺に、ユウナが何か言いたげな目を向ける。それに「どうした?」と声をかけると、ユウナが俺の目を見た。二、三度視線を逸らしたり合わせたりを繰り返すと、やがてそのまま意を決したようにこちらを窺う。


「レンくん、狩りに一緒に行きませんか?」

「…………へ? 俺が?」


 しばらく理解できずにいた俺の返事を聞いて、ユウナが頷く。それに俺は正直困った。恐らくそんな表情をしていることだろう。


「だめ、ですか……?」


 そんな捨てられた子犬のような目をして、ユウナが気落ちした声を出す。


「でもなぁ、俺、強くないしさ。おまえらの足引っ張ったら申し訳ないし」

「それなら大丈夫です。私もサポートします。それにミンちゃんが治癒魔法を使ってくれます」

「うん? 別にいいよっ」


 魔法を詠唱するには高い技術が必要だ。呪文はつっかえては駄目だし、スタミナも消費する。しかし、ミンなら容易いだろうな、と俺も思った。俺が問題としている点はそこじゃないんだよな、と思いつつ、なんとか反抗を試みる。


「でも客が来るかもしれないし」

「お客さんとはフレンド登録してるんですよね? 用があるならチャットが来るはずです」


 その通りだ。寝たい時に昼寝をするために俺が考えた仕組み。ついでに、一見さんは他の利用客とともに来ないと売らないということにしている。そうすれば、わざわざ店の番をしなくてもいいというわけだ。

 俺はユウナのお願いですから的視線を見てから、ふぅっと諦めとともに息を吐いた。


「……んじゃ、行くか。邪魔になっても知らないぞ」

「っ! はいっ! 行きましょう!」


 本当に嬉しそうにしているユウナを眩しく思いつつ、俺は店の戸締りを確認してから、三人で久々の狩りへと乗り出すのだった。







 俺の店から最も近い狩場は、『邪の森』のフィールドだろう。なにせそこに入るまでに二分とかからない。

 しかしユウナとミンの《武芸者》二人をメンバーとした狩りには、あまりに実入りが少なすぎた。スキル成長然り、戦闘の感触然り、である。そのため、俺達は邪の森より更に奥、『邪の吹き溜まり』と言う名の洞窟へと潜っていた。

 洞窟はフィールドより一回り敵レベルが高く、恐らくここは二十五ぐらいではないかと思われる。前線の敵レベルと五しか変わらないのだ。もちろん俺はあまり入ったことはない。

 この『邪の吹き溜まり』は当初、このあたりのモンスターの総本山だったらしく、エリアボスがいたそうだが、自警団体『愚者の盾』がそれを狩ってから、比較的おとなしい狩場となったという。まぁ、エリアボスが再湧出(リポップ)する可能性もあるのだが。


 そんな今では危険性も少なくなった洞窟を歩きつつ、俺は行く先に目を凝らす。索敵スキルに含まれた僅かな暗視能力を持ってしても、あまり先までは見通せない。


「……暗いな」

「そうですね……」

「だいじょぶだよーっ。いざとなったらレンが守ってくれるよっ」

「だから、俺を殺す気かよっ」


 なんでも俺に押しつけようとするミンにツッコむ。そんな会話を交わしながら、俺たちは洞窟の奥へと進んでいく。

 今回はしっかりと俺も武装をしている。動きを阻害しないレザージャケットに上質素材の絹で織られたインナー、わずかに敏捷性の上がる羽毛入りのズボンなど。あまり外見にこだわりがないので、茶系の初心者装備のような色合いだが、これが俺の持つ最高かつ唯一の装備である。ちなみに俺は防具作りは門外漢なため、他の職人に委託して作ってもらった。

 始め俺のその装備を見たミンが、「新入り(ニュービー)さん、手助けしましょーかっ?」と言った時、密かに傷ついたりなどは決してしていない。

 ……決して、だ。


「……やべ、涙出てきた」

「だ、大丈夫です?」


 心配そうに声をかけてきたユウナを「大丈夫」と言って安心させる。ミンは俺の涙の理由を悟ったらしく、唇を一文字に結んで笑いをこらえていた。

 と、そこで。

 俺の視界に、少なくない数の黄色のカーソルが浮き上がる。それは暗闇から迫る敵を示していた。


「来たぞ」

「みたいだね」

「はい、捕捉しました」


 俺が状況を把握すると、パーティ内にその索敵情報が伝わる。それを受け取ったユウナがまずは牽制の一撃。チート武器『焔天』が炎を纏い、暗闇を突き抜けた。

 その矢は真っ直ぐ何かにぶち当たり、それでまとめて数匹の反応が消える。が、それでも数は減らない。近づいてきたことによってその数がはっきりとしてきた。

 《ゴブリン》、《コウモリ》、《泥棒ネズミ》。その三種がまとめて、三十匹余り。その中には数匹乙ランク個体も紛れている。

 特殊攻撃はないものの、なかなかに厄介な数といえた。


「逃げていい?」

「「駄目(です)っ」」

「……へーい」


 泣きそうになりながらも、俺は腰に吊り下げている拳銃を両手に二丁で構える。「レンとユウナは遠距離お願い。ボクが撹乱するから」と簡易的な指示を出すやいなや、ミンが目の前のモンスター群に突っ込んだ。


「おりゃ」


 そんな気の抜けた掛け声で俺は引き金を引く。放たれた銃弾は、物の見事に外れて敵群の足元の地面を穿つだけ。それはゴブリンたちの一瞬の気を引くことしかできない。

 しかし、それで充分だった。

 その頃にはミンが敵陣一列目をダガーナイフで切り裂いている。

 グギャァッッという声を上げて先頭のゴブリンはポリゴン片に爆散した。

 レベル二十超ゴブリンを一撃とか。……なんてこったい。

 恐ろしい装備を作ったなぁ、と遠い目をする俺。そんな間に、ミンは敵の群れの中を瞬発的な加速を繰り返し、撹乱、撃破していく。

 そして放たれる『焔天』。ユウナの狙いはスキルもないのに正確で、大きめの個体の体が次々と炎に包まれていく。彼女の弓を放つその右手が、赤いシステムエフェクトを帯びていた。《エンチャント・炎》を使っているのだ。

 足元から這い上がる丁ランク《泥棒ネズミ》を蹴って追い払ってから、射撃。近ければさすがに当たる。すこし得意げに胸を張っている間に、ゴブリンが近づいてきたので、急いで逃げてターゲットから外れる。

 そこまでは順調だった。既に十体弱の敵を屠り、ユウナが次の矢をつがえている。それを見て、「もういっか」と俺が面倒臭さに拳銃を下ろした時だった。


「レンっ! やっぱりヘルプっ」


 ミンが声を上げる。その方向を注視してみると、そこには敵十数体にターゲットにされて囲まれているバカの姿があった。

 ミンの持ち味は天性の俊敏性とそれを使った撹乱だが、前衛一人では対応しきれなかったらしい。俺に前衛に入れと言っているのだった。


 つまり、囮になれと。


「……まじ?」

「早くっ!」

「ったく、なんで俺が……ああ畜生!」


 いくら高性能の防具だからといっても、囲まれれば身動きが取れない。そして身動きが取れなければ、後は死を待つのみ。

 死。


 意識した途端、俺は駆け出していた。


「ユウナっ! 丙個体を頼む!」

「わかりましたっ!」


 ユウナには、少しばかり強力な丙ランクの魔物を始末してもらう。それに対しての了解の返事に込められた心配。そんなユウナの声に唇の端を持ち上げた笑みを見せながら、ミンが埋もれている辺りへ向かって疾走した。

 俺がモンスター群に突っ込む直前、ユウナの放った焔の矢が俺の道を拓く。それを信じて突き進み、俺は。


「うらぁ!」


 両手に握った二丁拳銃を、周りに乱射し始めた。

 見回せばどこもモンスター。そんな状況で当たらないわけがなく、俺の銃弾はすべてが命中した。運悪く複数の銃弾を受けた個体が何体か消え去った。


「ありがとっ」

「どういたしましてだよ、くそっ!」


 ヤケクソ気味に銃弾を考えなしにぶっ放す。ミンも高速連続突きAMスピアーで切り裂き続けた結果、だいぶ敵は減った。

 しかし、自分たちを取り囲む敵の姿が十体を切ったところで、俺に不幸が訪れた。

 カチャカチャ。

 そんな軽い音とともに、両手の拳銃が弾切れを起こしたのだ。


「………………うそん」


 そこで自分の頬を突風が叩く。ゴブリンの振る棍棒がスレスレを通ったのだ。


 俺は背中に冷や汗が流れるのを感じた。



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