序章
外はお昼を少し過ぎたばかりであるにもかかわらず、部屋は薄暗かった。
家中の窓にはすべて黒いカーテンがかかっており、すき間から差し込む
わずかな光が室内を照らしている。時折開いた窓から吹き込む風がカーテンを揺らし、
ひときわ室内を明るく照らす。
その薄暗い部屋の中で一人の少女が机に向かって新聞を読んでいた。
目は眠たげで、明らかに寝起きであるようだ。その机の位置は部屋の中でも一番暗いところにあった。
「嫌な客が来る…」
少女がふと新聞から顔を上げ、カーテンのかかった窓を見つめてつぶやいた。
人語ではない、音楽のようなエルフの言葉であった。
それは独り言のようなつぶやきにもかかわらず、布一枚で仕切られた隣の部屋から
10才に満たないであろう女の子が目をこすりながら顔を出した。こちらも眠たげだ。
「おはよう・・・・サティ、どうしたの?」
女の子は首をかしげて少女を見つめた。
サティと呼ばれた少女は首を一つ振ると紙に何かを書き手渡した。
「余計な奴には会いたくない。その人だけ連れてきて。」
「わかった。」
女の子が返事をすると同時に家中にノックの音が響いた。
「…ろくな事にならない。」
女の子の出で行った方を見つめながら少女はつぶやき、招かれざる客を迎える準備を始めた。