第一話:浅井長政のいない世界
永禄二年(1559年)七月末、小谷城。物語は此処から始まる。
「皆の者聞くがよい、この度父久政から六角の家臣平井の娘を正妻に迎えるようにと命ぜられた。オレの元服の際に賢政と名付けられたこととあわせて考えれば六角の狙いは明らかである。オレの代になれば浅井を六角の家臣として扱うと言うことだ。オレは戦わずして臣従したくはない、このままなにもせずに六角の陪臣に成りたく無いのならオレと伴に兵を挙げよ。」
〔あれ、何だこの静かさは、オレってばここまで人望が無かったんかよ。どないしょー。〕
ウウオオオーーーー
〔え、ええ、何、何なのこの大歓声、これってもしかして……〕
これより四日後、犬上郡野良田にて浅井賢政率いる五千の兵は、六角義賢率いる五千の兵を打ち破ったのである。時に永禄二年八月、史実よりも一年早く野良田の合戦が起きたのである。
浅井の兵は前日休養してたのに対して、六角の兵は半分の五千がやっとのことで駆け付けたので一刻を待たずに打ち破られたのである。
この勝利の後、直ちに追撃戦に移ると共に、日野城の蒲生賢秀と瀬田城の山岡景隆に甲賀郡の喇叭衆の頭領格の者達を調略したため、八月末には六角を追い出し近江を平定したのである。
この戦の最中に、名を改め。浅井近江守鷲政としたのである。
翌月には浅井下野守久政は隠居させられ、鷲政が名実共に近江の支配者に成ったのである。
〔まあ仕方無いよな、あんな二回も出戻ったデブを嫁になんかしたくはないもんな、鷲政にしたのも長政の長の字の理由を説明できないしなあ〜。勢いで近江を統一したけどどないしょー〕
さて、読者の皆さんがお気づきのとおり鷲政は前世の記憶を持つ転生者である、それも二十一世紀の日本人である。
そんな彼の転生先は、本来は浅井備前守長政と名乗るはずだった戦国大名である。
既に歴史は彼の手で作り変えられてしまった。この新たな戦国乱世を彼と共に、ご堪能いただきたい。