承(悪役令嬢の矜持)
私にも 悪役令嬢 書けるかな
ヒロイン感のある悪役令嬢ではなくガチの方で物語を裏からみた場合。
「婚約を解消したい。」
まるで今日の天気について話すように殿下は婚約解消の話題を切り出した。
「聖女召喚の儀を執り行うことになった。」
この国では建国以前から伝わる女神信者が多く日照りが続くようになると朝、昼、夜と神殿に雨乞いをする信者が増えた、ひっきりなしに雨乞いの願いを聞く羽目になる女神様はさぞ煩く感じているのではないかしら。
伝承では女神が遣わした聖女が貧窮する民を救うために顕現したことがあるそうよ。
陛下に相談せず聖女召喚の儀を整えている噂は耳にしていたので今後の身の振り方を含めて多少覚悟はしていたのです。
「陛下は解消についてご存じなのかしら?」
「後ほど説明する…予定だ。」
「解消については私ではなく父に報告をお願い致します。」
思いつきの行動かしら?昔から考えが浅いと陛下から指摘されていましたものね、私は父が納得するのであれば口出しできません。
この状況では報告時にどの様な顔をして陛下がこの婚約解消の話を聞かれるか見て見たいけど巻き込まれるのは御免ね。
まぁ聖女召喚で私が身を引いた形なら大義もあるのでこちらの痂皮は少ないまま殿下と縁が切れたのでしょうが結果来たのがどう見ても平民しか見えない忌み色の聖女とは…。
幼い時に婚約が決まり血の滲むような努力をしてきましたが聖女として召喚されただけの彼女に国母が務まるのか疑問です。
召喚された聖女は身の程を理解しているのか王宮には留まらず神殿に居を構えたようだけどそれは聖女の囲い込みに失敗したと周囲に受け取られることになってしまったようです。
噂って広まるのが早いのね、ふふ。
その後、婚約解消の話をして1週間も経たずに殿下が私の目の前で頭を抱えているのですがまさか面倒事を私に丸投げするつもりなのかしら。
目の前で思い通りに行かずにイライラと神官達や靡かない聖女に対する愚痴を口にする殿下に対し縁が切れた殿下の相手をする必要私には無いんじゃないかしら?
…と思いましたが王家に貸しを作ると思って邪険にするなと父から言われた以上無下にはできません。
さて、目下の問題は召喚した聖女が聖女に値しない証明ができればよいのですが神殿の助力を得て井戸を掘り始めたようですね。
侍女に多少嫌がらせに成っても構わないから力量を見てくるように任せたのですが土をかけて生き埋めに仕掛けたと聞いて忌み色聖女でも女神の加護があればこちらにどんな不利益が身に振りかかるかヒヤリとしました。
結局大したことなかったので女神の加護なんてないのかもしれません。
ホッとしたのと同時に婚約者の立場をこんな聖女モドキに奪われたのかと情けなくなりました。
私の思いは周囲に伝わって居たのでしょうね。
井戸の完成を聞き陛下にお祝いのご挨拶に向かった際に会いたくも無かった忌み色聖女とすれ違うことになりました。
言葉を交わすことなく去るつもりでしたが侍女の一人が聖女に近寄り肩の辺りに触れたように見えました。
バランスを崩した聖女は声すら上げないまま王城の階段を落ちて…
…落ちる途中で光に包まれて消えて何とも言えない空気が『お疲れ様。』という中性的な声と共に残った。
召喚した聖女が消えたという話はあっという間に小さな王都に広まり神官と貴族の深い溝が更に深まった頃でした。
「王都から人が消えた?!」
神殿は空っぽ、一部貴族寄りの商人を除く平民が消えてしまったのです。
あの日の忌み色聖女のように跡形もなく。
それだけではなく昼頃から吹き始めた風は周囲の砂漠を巻き込み砂津波となり王都を飲み込む勢いです。
「女神の怒りだ!」
ガタガタと震えながら床に伏せて祈る衛兵。
「忌み色聖女の呪いよ!」
貴重品を胸に抱え髪をふり乱し叫ぶ女官。
私は悪くない…間違ってない…
迫りくる砂津波にただ下唇を噛むことしかできませんでした。




