起(聖女?は喚ばれた)
呼んだけど お前じゃないと 放置する
召喚したけど気に入って貰えなかったパターン書いてみた。
一瞬の出来事だった。
雪で濡れたダウンコートが駅ビルのエスカレーターに絡まり気づいたら背中から空中に放り出された感じだった。
支えのない背中のゾワリとした感覚に恐怖を感じたが終電間近の駅は私以外の人影はなく助けを呼ぼうとしたが空気が喉に詰まり声を出す間もなく落下して床に叩きつけられた…はずだった。
ぎゅっと瞑っていた瞼を恐る恐る開くと無機質なタイル張りの床ではなく薄く光る紋様が描かれた床に転がっていた。
周囲からざわざわと歓喜と困惑がまざる声が聞こえて慌てて起き上がると先程までいた見慣れた駅ではなかった。
夢?頭を強く打ったかな??
へたりと座った石床の冷たさが不安感を引き上げる。
苦手な人付き合いて身につけた愛想笑いをへらりと浮かべ近くにいた白い装束の人物に状況を尋ねると聖女召喚の儀を行ったが現れたのが私で困惑しているらしい。
…喚び出された私も困惑しているし、用がないなら還して欲しい。
夢なら早く覚めて欲しいが今は目覚める時では無かったようで悪夢のような状況は変わらなかった。
白い装束の人物はこの国の神官で砂漠に囲まれた小国であるこの国の水不足や食料難から派生する疫病などの問題を解決すべく信仰対処の女神に聖女を派遣して欲しいと祈りを捧げていたそうだ。
来たのが死神の様な黒髪黒目の私で失望して居るそうで特に召喚の指示をした王太子はせっかく王妃に迎えてやろうかと思っていたと不服らしい。
それも、今まで結んでいた婚約を破棄して聖女召喚に臨んでいたそうだ。
…知らんがな、好きで此処に来てないわ。
神官には戻せるなら戻して欲しい、無理なら保護して欲しいが王家に嫁ぐことは望んでいないと伝えた。
身の丈に合わない事には手を出さないのが一番。
結果、私の身柄は神殿預かりとなった。
当面神殿で女性の神官達と生活する事になったがそれも後ろ楯になっていい顔したかった王太子にはどうやらお気に召さなかったようだ。
…知らんがな、いい顔したいのそちらの都合よ。
神殿にいる神官の話では水不足で困った時に同じように聖女を召喚した事がありその時に作られた井戸が枯れた事で農作業の生育が悪くなり栄養不足で倒れるものがでたり衛生面の悪化で疫病が発生していると複数の神官が代わる代わる説明してくれた。
水が枯れる前に何かあったか尋ねた所、魔物の様な低い唸り声と大地の揺れが起きたあと徐々に井戸の水量が減り現在は枯れていると年長の神官が答えた。
それって、地鳴りと地震じゃないか?水脈の流れが変わっただけじゃないか??
出来そうな事から手を付けてみようとボランティアで井戸掘りした際の知識でダウジングを試し反応があった所を掘り始める事から始めた。
流石に無許可は揉める気がしたので
『枯れた井戸の代わりになりそうな場所を見つけたのだがどうすれば良いでしょうか?』
…と神官達に相談した所面倒な事務手続きは引き受けて貰えて井戸掘りに集中できた。
手の空いている神官達や神殿騎士、王都の一般市民が様子を見に来て差し入れや手伝いをしてくれたので井戸掘り作業はスムーズに進行していた。
唯一、印象最悪な王太子の元婚約者が邪魔しに来たことを除けばの話。
「あらぁ、薄汚いモグラか野ネズミと思いましたわ。」
掘っている穴の上方から土をかけられたときはヒヤリとした。
後ほど土をかけてきた元婚約者とその取り巻き達は神官から王太子が召喚した聖女の後ろ楯になる事を理由に婚約を解消したので聖女を快く思っていないだろうと教えて貰った。
私は悪くない。
熨斗付けて返すから関わらないで欲しい。
こうして、元婚約者さんから土をかけられたりゴミを投げ入れられたりする嫌がらせはあったが無事井戸を掘り上げた。
並行して砂地でも比較的育成しやすい作物の見直しを行ったことで神殿の信頼度はアップしたと思う。
逆を言えば忌み色と私を遠ざけた王太子の立場はあまり良くなかったようだ。
井戸の完成祝いが行われた際に事件は起きた。
「平民崩れの聖女が…!」
長い階段の上から王太子から肩を強く押され私はバランスを崩した。
何か言い返そうとしたが喉の奥に空気の塊を感じて言葉にならなかった。
背中から落下する途中自分の身体が光ったように見えた。
意識が途切れる瞬間『お疲れ様。』と聞こえた気がした。
意識が戻ってみると無機質な天井と腕から伸びる管が見えた…病院と言うことは私はやたら疲れる夢をみていたらしい。
夢とはいえ神殿の神官さんや差し入れをくれた方々のことは心配だが私が何か出来ることはもう無い。
書きかけのレポートの続きを書かなければいけないが私は消毒臭い布団を頭から被って再び眠りに落ちた。
召喚が毎回ストライクとは限らないですよね。




