新しい朝
気がつくと、しゅうは教室にいた。普通の教室に。時計を見ると、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴ろうとしていた。
しんじが隣で眠そうに欠伸をしている。「おい、もう四時間目だぞ」
窓際には名前も知らない女の子がいる。
しゅうは自分の胸に手を当てた。夢だったのだろうか。でも、心の奥で何かが確実に変わったのを感じていた。
「なあ、しんじ」
「ん?」
「お前、こたにのことって覚えてる?」
しんじが急に真剣な顔になった。「あ…ああ、覚えてるよ。二年前に転校していった…なんか、お前と何かあったんじゃないか?あの時、お前すげー落ち込んでたし」
しゅうは驚いた。しんじも何かを覚えているのかもしれない。
昼休み、しゅうは携帯を取り出した。そして、ずっと連絡を取っていなかった番号にメッセージを送った。
「こたに、元気?今度会えない?話したいことがある」
返事はすぐに来た。
「しゅう?久しぶり!もちろん、会いましょう!実は私も話したいことがあったの」
しゅうの心臓が跳ね上がった。
放課後、校門で待っていると、見慣れた姿が現れた。二年前より少し大人になったこたにが、やはり昔と変わらない笑顔で手を振っている。
「待った?」
「いや、今来たところ」
歩きながら、こたにが不思議そうに言った。「ねえ、今朝変な夢を見たの。昔の教室で、あなたと会話してる夢」
しゅうの足が止まった。「え?」
「なんだか、とても大切なことを話した気がするんだけど…思い出せないの」こたにが首を傾げる。「でも、とても温かい気持ちになって目が覚めたの」
しゅうは微笑んだ。やはり、あの出来事は二人の心に刻まれているのかもしれない。
公園のベンチに座ると、こたにが切り出した。「実は、ずっと気になってたことがあるの」
「何?」
「二年前の春、あなたがうちの前で何か言いかけて、結局言わずに帰っちゃったこと。あの時、何を言いたかったの?」
しゅうの心が温かくなった。こたにも、あの日のことをずっと気にしていたのだ。
「実は…告白しようとしてたんだ」
こたにの目が大きく見開かれた。「え?」
「でも、お前が困った顔をしたから、嫌がられたんだと思って逃げちゃった」
こたにが驚いて首を振った。「困った顔?私、全然困ってなかった!むしろ、すごく嬉しくて、なんて返事しようか考えてたの。そうしたら、あなたが急に謝って走って行っちゃうから…私、何か悪いことしちゃったのかと思った」
二人は顔を見合わせて、そして同時に笑い出した。
「なんだよそれ」しゅうが笑いながら言った。「完全にすれ違いじゃん」
「本当にね」こたにも笑いながら涙を浮かべている。「二年間、ずっとモヤモヤしてたのよ」
笑いが収まると、しゅうは真剣な顔になった。「今さらだけど…改めて聞かせて。俺と付き合ってくれる?」
こたにが満面の笑みで頷いた。「うん。私も、ずっとあなたが好きだった」
夕日が二人を優しく照らしていた。今度は時間を気にすることなく、ゆっくりと手を繋いだ。
「なんか、運命みたい」こたにがつぶやいた。
「うん、きっと何かが俺たちを引き合わせてくれたんだ」
その時、しゅうのスマホが鳴った。しんじからのメッセージだった。
「おい、うまくいったか?応援してるぞ!」
しゅうは微笑んで返事を打った。「ありがとう。うまくいったよ」
こたにが不思議そうに聞いた。「しんじ君、何を知ってるの?」
「親友の勘ってやつかな」しゅうが笑って答えた。
二人は手を繋いだまま、夕焼けの中を歩いていく。今度こそ、同じ時間を、同じ想いで歩いて行く。
空の向こうから、誰かが見守ってくれているような、そんな温かさを感じながら。