第9話「超人と凡人のあいだ」
——村は、少し騒がしくなっていた。
ユウとリラが滞在する間に、周囲の人々は彼に興味を抱き始めていた。
「ユウさんが言ってた“自分で選ぶ勇気”、あれ、なんかすごく響いて……」
「俺も明日、親の言いなりやめようと思うんだ」
「ユウのマネして、“意志の剣”を鍛える訓練始めました!」
好意的な声、共鳴。だが——。
「……なんか、違うんだよな」
ユウは悩んでいた。
「俺が言った言葉って、俺だけのものであって……誰かに“信じろ”なんて、言ってない」
リラは焚き火の前で、静かに頷く。
「それでも、人は“誰かの言葉”にすがってしまう。自分を動かすものが見えないとき、光を借りたくなるから」
「でも、それって結局、また“誰かに従う”ってことじゃないのか?」
「超人とは、孤独な理想主義者じゃない。“価値を生む器”よ」
ユウはその言葉を反芻した。
“価値を生む器”。
そのとき、一人の少年が駆け寄ってきた。
「ユウさん、教えてほしいんです! “自分の価値”って、どうやって見つけるんですか?」
ユウは、少年の瞳をまっすぐに見返した。
「俺のマネをするな。……でも、俺を踏み台にして、超えていけ」
驚いた顔をする少年に、ユウは微笑んだ。
「俺が言いたいのは、誰かを信じるな、じゃない。“自分で考えて、自分で選べ”ってことだ」
焚き火がぱちぱちと爆ぜた。
その夜、ユウは星空の下で静かに語った。
「……伝えるってことは、模倣されるってこと。でも、模倣の先に“自分の形”を持てるなら、それでいい」
リラが横で小さく笑う。
「立派になったわね、超人候補」
その瞬間、闇の中から声が響いた。
「——やっと見つけた」
現れたのは、フードを被った謎の人物。
「“言葉の力で世界を変える者”……君こそ、次なる“神”にふさわしい」
ユウとリラは、顔を見合わせる。
——旅は、また新たな局面を迎えようとしていた。






