第4話「超人って、ただの厨二じゃない?」
——荒野に、風が吹いていた。
ユウはニーチェくんに連れられ、廃墟のような訓練場へやってきていた。空は曇天、辺りには誰もいない。ただ、地面に深く刻まれた無数の足跡と、いくつかの焦げ跡がこの場の過去を物語っていた。
「ここで、“力への意志”を試すゾ」
「また唐突だな、おい……」
ユウはブツブツ言いながらも、内心、何かを掴みたいと焦っていた。クラウスの言葉も、ソフィアの視線も、胸に突き刺さったままだ。
「俺は……何者なんだよ、本当に」
そのときだった。
「お前が、“超人候補”か」
凛とした声とともに、砂埃を踏みしめて現れたのは、一人の女性だった。長い銀髪を後ろで結び、黒いコートを羽織っている。目は鋭く、唇には笑みすら浮かばない。
「リラ=ディオニュシア……ニーチェ教団の実戦教官だゾ」
ニーチェくんの紹介に、リラはわずかに頷いた。
「お前の“意志”を確かめに来た。ついてこれなきゃ、今すぐ帰れ」
そして——彼女は攻撃してきた。
拳が風を切り、ユウは反射的に後ろへ飛びのいた。だが、リラの動きは止まらない。彼女のスキルが発動した。
「発動:力への意志」
リラの背後に、闇のような“意志の炎”が立ち上がり、ユウの胸の奥へと侵入してくる。
——過去の記憶が、蘇る。
何度も諦めた夢。誰かに合わせて変えた進路。何も言い返せなかったあの日。
「やめろ……やめろ!!」
ユウは叫んだ。だが、炎は彼の心の奥底、“本当の欲望”を焚きつける。
「世界に選ばれなくていい。自分を選び直せ」
それは、リラの声か、ユウ自身の声か。
次の瞬間、彼の中に眠っていた何かが目覚めた。
「発動:永劫回帰」
——すべての選択が、何度でも繰り返されるとしたら、それでも自分は、この人生を選ぶか?
その問いに、ユウは初めてこう答えた。
「俺は——選ぶ。“俺の人生”を、今ここで!!」
光が爆ぜ、風が巻き起こる。廃墟の大地に、彼の足跡が力強く刻まれた。
リラは、剣を収めた。
「……少しは、“超人”らしくなってきたな」
——少年の中に、確かに一つの“意志”が芽生えた。
それは、誰かに認められるための人生ではなく、
——自分で、自分を肯定するための人生だった。