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第3話「定言命法でぶん殴る」

——森の中に、一本の剣が突き立っていた。


ユウは息を切らしながらその前に立っていた。逃走劇の果てにたどり着いたこの場所は、静かで、それでいて妙な緊張感があった。


「やれやれ、まさか牢獄から逃げてくるとは。イデア教団の連中も案外ぬるいな」


その声とともに、木々の陰から現れたのは、一人の青年騎士だった。銀髪を束ね、深紅のマントをはためかせたその姿は、まるで“正義”そのものを体現しているようだった。


「お前……誰だ?」


「我はクラウス・カント。カント派騎士団の副団長だ」


騎士は目を細める。


「君は……無秩序な者だな。無原則にして不合理。ここで是正する」


「おいおい、いきなりなんだよ! 俺、ただ通りすがりなだけで——」


「理由など不要。“人間としてなすべきこと”をなす。それだけだ」


クラウスの剣が構えられる。するとその刃から、青白い光が立ち上がる。


「発動:定言命法カテゴリカル・インペラティヴ


バシュウッ!!


剣から放たれた閃光がユウをかすめ、背後の岩が真っ二つに割れた。


「うおおおっ!? ちょっ、まてまてまてまて!」


「自分の行為が、すべての人に当てはまっても良いか? それを常に問え。それが“理性”だ」


クラウスの言葉は重く響いた。だが、ユウは思わず叫んだ。


「いや、それが正しいとしても! 俺はまだ、自分が何を選びたいのかもわかんない!」


その叫びに、一瞬だけクラウスの目が揺らぐ。


「……ならば、お前には“自由”はまだ早い。理性に従う資格がない者は、導かれるべきだ」


その瞬間、ユウの背後に飛び出してきたのは、もちろんアイツだった。


「ちょい待ちだゾ! 自由とは、与えられるもんじゃない、自分で“勝ち取る”ものだゾ!!」


ニーチェくんが空中で回転しながら叫ぶ。


「クラウス、キミの理性は立派だが、それがすべての人間に当てはまるとは限らないゾ!」


「ニーチェ……教団の者か。だが、我々は違う理念を信じている」


クラウスは一歩引き、剣を収める。


「判断は保留する。ユウ、君の選択がいずれ“普遍的原理”となるならば、その時、また会おう」


そしてクラウスは森の奥へと消えていった。


ユウはその場にへたり込み、汗だくで呟いた。


「……こっちの世界、息つく暇もねぇ……」


「それが“生きる”ってことだゾ! さあ次は、“意志”の力を磨くんだゾ〜〜〜」


——哲学は、選ぶことから始まる。


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