第12話「世界に問いを」
——静寂が重く降りていた。
虚無の影を越え、幾多の思想官との対話と戦いを乗り越えたユウたちは、ついに創世連盟の本拠——“玉座の間”へと足を踏み入れた。
そこは無数の書物が宙に浮かび、言葉そのものが粒子のように空間を漂う異質な空間だった。中心には、輝く球体状の装置——「思想の書庫」が鎮座していた。
「ここには、世界中の人間が積み上げてきた“思想”のすべてが記録されている」
静かに現れたのは、創世連盟の“思考核”と呼ばれる存在だった。
「君は“選ばれし神の候補”だ。この書庫を通じて、世界に一つの“秩序”を敷くことができる。理想の秩序か、混沌の自由か。今こそ選ぶときだ」
リラが一歩踏み出し、剣に手をかける。
「そんなの、決める必要なんて——」
だがユウが制した。
「……待って。俺は、考えたい」
ユウはゆっくりと思想の書庫に近づいた。その表面には無数の思想が流れ、彼の思考に直接訴えかけてくる。
——「すべてを理性に委ねよ」
——「理想なき自由は混沌だ」
——「善とは最大多数の幸福」
——「神が死んだなら、人は己を律せよ」
ユウは震えながらも、しっかりと球体に手を置いた。
「これが……人間の思想の重み……」
その瞬間、彼の内なる“力”が呼応する。永劫回帰の力だ。
意識の深層が拡張され、彼の思考はあらゆる選択肢を想定し、世界の未来をいくつも同時に演算し始める。
——だが、そこでユウは気づく。
「……選べない」
「え?」とリラが振り返る。
「誰かが正解を決めるって、つまり他のすべての“可能性”を否定することだ。そんなの、俺にはできない」
静かに、しかし確かにユウの声は響いた。
「俺は、問い続けたい。何が正しいかじゃない。どう“選び続けるか”なんだ」
その瞬間、思想の書庫が軋み、ユウの暴走する思考が臨界に達する。
空間が歪み、すべての思想が光となって渦を巻く。
「ユウ!」リラの叫びが届くも、ユウは意識の深みに沈んでいく。
——そして始まる、世界の崩壊と再構築の連鎖。
永劫回帰の力が、世界そのものを巻き込んで動き出した。