第11話「神の影」
——虚無の残響が、空間を包んでいた。
創世連盟の使徒によって召喚された“虚無の存在”たちは、意志なき群体としてユウたちに襲いかかった。しかし、ユウの剣とリラの戦術、そしてニーチェくんの挑発的な言葉が混ざり合い、辛うじて勝利を収める。
「ふぅ……さすがに疲れたゾ」
ニーチェくんが小さく息を吐いたそのとき——空間が軋む。
黒と金の法衣をまとった四人の人物が姿を現した。
「歓迎しよう、“神の候補”よ」
その声に、ユウは背筋を伸ばした。
「お前たちは……?」
「我らは創世連盟の四大思想官。それぞれ、秩序・理性・美・力の権化だ」
彼らは順に名乗りを上げ、ユウの前に立ちはだかる。そしてそれぞれが、自身の思想に基づいた「問い」を投げかけてきた。
——「秩序のために自由を捨てられるか?」
——「感情ではなく、理性が正義だと証明できるか?」
——「人は“美しき理想”に従うことで、幸福になれるのでは?」
——「価値は“力”によってこそ決まるのではないか?」
それはまるで、ユウがこれまで学んできた哲学者たちの理念が、実体を持って現れたかのようだった。
幻影が現れる。
白衣の哲人——プラトン。
「真の世界は理想にこそある。君が信じる現実は、ただの影にすぎない」
カツカツと足音を鳴らして、もう一人の幻影が現れる。
冷徹な眼差しの男——カント。
「道徳法則は理性に内在する。衝動に従う君の自由は、真の自由ではない」
——ユウの呼吸が荒くなる。
「やめろ……お前たちの言葉は、俺を縛る!」
「違うゾ、ユウ」
ニーチェくんの声が、静かに届いた。
「縛ってるのは、“お前自身”だ。過去の哲学を否定する必要はない。ただ、“その先”を見せてやれ」
ユウは剣を握り直し、まっすぐ幻影のカントを見つめた。
「確かに、衝動に流されるだけの自由は危うい。でも俺は、理性すらも超えて選びたいんだ」
幻影が静かに霧散していく。
「選ぶ力を持つ者は、問い続ける者だ」
ユウの中に、確かな覚悟が芽生える。
——誰かの“正解”に従うのではない。“自分の問い”を、信じるんだ。
その瞬間、玉座の間への扉が開いた。
「行こう。まだ、俺は終わっていない」
そう言って、ユウは歩き出した。
新たな戦いと、新たな“問い”が、彼を待っている。