第10話「神の選定」
——その声には、確かな重みがあった。
「君こそ、次なる“神”にふさわしい」
闇の中から現れた男は、フードの奥に鋭い双眸を宿していた。その口元には、揺るぎない確信。
ユウとリラはすぐに構えた。だが男は攻撃の気配を見せない。
「誤解しないでくれ。我々は“創世連盟”と呼ばれる思想結社だ。世界に新たな価値体系を創るため、次の“神”を求めている」
「……神、だって?」
ユウは思わず口にした。
「この世界には、あまりに多くの“理念の断片”が溢れすぎている。誰もが答えを探し、誰もが迷っている。ゆえに、私たちは“一つの軸”を欲しているのだ」
フードの男は語る。
「君のような存在——“意志の火種”を持ち、他者に響く言葉を紡ぐ者こそが、神に最も近い」
リラが前に出る。
「お断りよ。ユウは“選ぶ者”であって、“崇められる偶像”じゃない」
「同意するゾ」
どこからともなく現れたニーチェくんが、ぴょこんと飛び出す。
「“超人”は、神ではない。“人間を超える存在”とは、“自分で価値を創る者”であって、誰かに崇められて満足する者じゃないゾ」
だが男は笑みを崩さない。
「ふむ……やはり、君たちは面白い。ならば、試させてもらおう」
男が手をかざすと、大地が揺れた。
地面が割れ、虚空のような空間が出現する。その中から、人の姿をした“虚無の存在”たちが現れた。
「“神の言葉”とは、信じる者がいてこそ成立する。君は、彼らを前にしても“自分の言葉”を貫けるか?」
ユウは剣を構える。
「……望むところだ。俺は誰かの神になるつもりなんてない。でも、“俺の人生”に誇りを持って生きてる」
“意志の剣”が光を帯びる。その輝きは、どんな神話の神器よりもまばゆかった。
リラが背を預け、ニーチェくんが叫ぶ。
「いくゾ、超人候補! “神”なんて、超えてしまえ!!」
——新たな戦いが、静かに幕を開けた。