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第9節 可愛いねぇ優輝ちゃん

           *


 まったく夏は暑い! 

 当たり前が当たり前だと分かっとっても納得はできん!

 

 7月も終わりに近づくと遠い遠い学生時代を懐かしく思い出すんだな。このクソ暑い夏は『夏休み』という素晴らしきトキメキたっぷりの自由時間が満ちた時期でもあったわけだ。日の当らない涼しい部屋の中から現実を離れてパラレルワールドへ。あの頃はただひたすらドンパチやるだけのシューティングが好きだったな。単純だったぜ。

 そんな素敵な時間があった時代は今や俺にとっては原始時代だったも同然。このクソ暑いさなかにわざわざ家を出て、そして毎日せっせとせっせと死体のお世話。あの原始時代の俺が現代人となった時、まさかこのような毎日を過ごしていようとは想像もしていなかった。もちろん原始人にそんな未来の事が想像できるわけねぇよな。つまりおバカさんだったわけだから。


 それにしても高橋の恋話(こいばな)は、あれからひと月くらい経ったにもかかわらず、たいした盛り上がりがなく期待し過ぎていた俺は毎日に退屈感があった。

 うーん、でも安心感もあったか。俺を差し置いて高橋がウキウキウッキーなのは許し難い。

 ところがだ。これまた思いもよらぬ人物が俺に楽しみを運んできてくれたんだな。


 食堂で俺はいつもの通りコンダクター女子を眺めながら高橋と世間話をしていると優輝ちゃんが何食わぬ顔して入ってきた。俺と優輝ちゃんは4年近く一緒だが、いつも飯はここの飯を食ってたはずだ。俺と同様グルメじゃないし、食いに行くのも面倒だとか言ってな。にも関わらず手にはコンビニ袋をぶら下げている。

(こ、これは……もしかして……)

「おやっ、ユウキちゃん。またコンビニで昼飯買って来るなんてどうしたの?」

 俺はピーンと来たね。ここから歩いて行ける近くのコンビニは一軒しかない。俺は(いえ)(めし)をよくあのコンビニで買うんだ。だから知っている。

「あー、あれ、あの子だろ。割と最近入ったかわいい子。あの子目当てで行ってきたな?」

 あそこに素敵なパイを持ったコンビニ娘がいることをな。

「え? 何訳のわからないことを言ってるんですか。違いますよ。この前コンビニ行った時に、たまには気分転換的に外へ出てコンビニで買ってくるのもいいかなと思ったんで……」

 優輝ちゃんはそう言って今までに見せたことのない動揺をしている。可愛い優輝ちゃんはすぐ表に出るんだぜ。目はいつも以上に合わせないし、いつもの平板な喋りじゃなくなっている。

「何、ごまかしちゃってぇ。わかってるって。なあ、高橋」

「ええ? どっちの子です?」

 高橋も察しが良いようで俺の顔見てニタついている。

「どっちって、決まってるじゃん。あのおっぱいの大きい子だよ。あの背がちっちゃくてさぁ。オレの推測じゃFだな。いや、もう一声言ってGでいこう」

「ああー。はい、はい、あの子ね。ありゃ、たしかに目は引くな。なんかちょっとエッチっぽい雰囲気ありましたね。たしかに」

「だろ? やっぱ女はパイのデカさが重要だな」

「永沢さん好きっすねー。あの子いくつだろ?」

「そうだなあ……19!」

 脂のノリはまだまだの青臭さのあるロリ顔をたしかしてたな。化粧が少し無理っぽくって俺からしたらせっかくの良い素材を無駄にしている。が、俺はそれよりもパイの立体感が頭の中に焼き付いている。パイの下にできる影……ヤバ、ちょいと興奮してきちまったぜ。

「俺はその子よりもうひとりの目がパッチリした黒髪の子の方が断然かわいいと思うなあ。色白で」

 高橋がそう言うと俺達から少し離れたところに座った優輝ちゃんがこっちを見ていた。ガッチリと俺はその目を捉えたね。間違いねぇ、優輝ちゃんはパッチリ女目当てだな。

「お、そうか。ユウキちゃんの目当てはパッチリおめめの子か。あの子も悪くないけどちょっと細いなぁ。うん、あれは細いっ! そして無いっ!」

 正直、パイ娘に比べて俺の中では印象が薄いが、確かに目が大きかったのは覚えている。そしてガリガリ君だった。

「永沢さん、無いって……そうでしたかねぇ」

「いやあ、ありゃいかん。もっとこう、ボーンといかないと」

「すんげぇ、永沢さんの好み分かりやすいっすね。たしかにあの子はボーンじゃなかったと思いましたけどね。しかし、永沢さんは、女の胸しか見てないんですか?」

「イエス」

 また相変わらず当たり前のことを言う奴よのぉ。

「だから結婚できないんですよ」

 ああ、その通りだよ。

「うるさいなあ、高橋」

「そういえば、例の強制見合いってヤツどうなったんです? 永沢さんたしか3回目のラストチャンスだったんですよね?」

 こいつ、馨ちゃんとの恋愛関係構築中だと思って良い気になりゃがって。俺様をイジろうとは。オマエから馨ちゃんを剥がしてやるぞー。

「あんなもん、どうでもいいよ。あんな推薦パートナーなんか大嘘だって。ぜんぜんオレとの相性がいいなんて思えないぜ」

「じゃあ独身で突き進むってわけですね?」

「当たり前だ。税金ぐらいいくらでも払ってやるよ。まあ、そういう高橋も俺と同じレールを突き進むことになるぜ」

 俺の話はどうだっていいんだよ。面白いのは他人の話なのだ。

「で、ユウキちゃん。あの子、何ていう名前?」

「そんなもん、オレは知りませんよ!」

 優輝ちゃんは俺の言葉にパクついていたパンを吹いちゃった。可愛いねぇ。こんな反応は初めてだぞ。

「なんだ、名前もチェックしてないのか。名札ぐらい見とかなきゃなあ」

 優輝ちゃんは非常に奥手ちゃんなのね。まぁ、俺も自分の事となると怖気づくのだが、人の事となりゃあ、ちょいと違う。ここはひとつお節介をして楽しんじゃおう。

 ふふふ。これでコンビニ・パイ娘を一層拝めることになるな。

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