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第7節 馨ちゃんと高橋。またプラス俺……

「なんだよ、珍しいじゃねぇか馨ちゃん。いつも(そと)(めし)だろ?」

「たまには良いでしょ。で何、永沢くんが何かやらかした?」

 そんなふざけた事を言ってチャッキー馨はコンビニ袋をテーブルに置くと高橋の横に座った。つまりコンダクター女子を見えづらくしやがったのだ。

「なんで、そこに座るんだよ?」

 俺はチャッキー馨につっかかった。

「なんでここに座っちゃダメなのよ? ねえ高橋くん」

 チャッキー馨の年甲斐もない可愛い子ぶった甘い声。

「そうですよ。永沢さん、鹿島さんが俺の隣に座るのが気に入らないんですか?」

 そのチャッキー馨の声に反応するアニキャラ高橋は勝ち誇ったニタつきで俺に言った。

「たわけ。そんなんじゃねぇーよ。見えなくなるだろうが」

 俺の言葉にチャッキー馨は後ろを振り向き、そして俺へつまらない質問をした。

「何が見えないの?」

「コンダクター」

「あ、なに? もしかして永沢くんの叶う事のない片想いの子がいるの?」

 とチャッキー馨はつまらないことを言ってコンダクター女子を見渡している。

「違いますよ。永沢さんはコンダクター女子を見てるのが楽しいんだそうです」

 俺の行動を報告するかのごとく高橋は馨ちゃんへ言った。

「わっ、やだ、キモ……」

 高橋の言葉にチャッキー馨は引き気味の笑い顔を作って反応しやがった。俺はなんだかイラッとしたね。

「普通に健全だろ。男が若い女を見て喜ぶっていうのは」

「ふーん。しかしなんで男どもは若い女が好きなんだろうねぇ。男も女も30からだと私は思うんだけどね」

 気の無い調子で語るチャッキー馨はサンドウィッチに小さく噛みついた。

「ですよねぇ。オレもそう思いますよ」

 高橋は調子に乗ってまた俺をダシに使ってきやがったな。こいつ、気が抜けねぇぜ。

「けっ。高橋、ちょーしの良いことをよく言うわ。さっきは腰がよぉ、痛っ……」

 くそっ、高橋の奴は俺のスネを軽くこついてきやがった。

「いやいや、マジで最近思うんですよね。自分がその歳になってくると。20代ってまだまだなんか青臭いっていうか、深みが無いって感じでね」

「高橋くん、分かってるじゃーん。そうだよねぇ。どうしたの永沢くん? 腰が痛むの?」

「なんでもねぇーよ」

 ノリノリ高橋にはもうツッコミを入れる気無くなったよ。

「で、すみません、鹿島さん。強制見合いってどんな感じなんです?」

 俺に聞けば済むことをわざわざ馨ちゃんから聞くんだからなぁー。

「ああー、とりあえずね、最初はね、30歳の誕生日1カ月前くらいに郵便で案内が届くのよ。そこに相手のプロフィールノートが入ってて、待ち合わせ場所がすでに設定されているのよ。で、拒否したければそのままCu(キュ)-()pid(ピッド)のサイトで拒否できるし」

「へぇー。あのぉ、失礼を承知で聞いちゃいますけど、鹿島さんって今、31歳でしたよね?」

「そうよ」

「って言うことは、2回目だったってことですよね?」

「へへへー、そうね」

 馨ちゃんは目を細めて高橋に照れ笑いを見せている。高橋の誘導による馨ちゃんは俺に見せたこと無い表情を見せる。その照れた馨ちゃんは可愛いく見えた。うーん、今までこういう角度で馨ちゃんを見たことが無かったからか? 

「それで鹿島さんは、2回とも拒否したんですか?」

「やだ、それ聞いちゃう?」

「いやいや、もちろん、無理にとは言いませんが……正直、興味あるじゃないですかぁ」

「だよねぇ、そりゃあ実際どんなものかってね。最初の30のときは全然気が乗らなかったから即拒否したんだけどね。この前のは、まあ興味半分でやってきた」

「マジっすかぁ!」

 高橋の顔は今までになくリアルな引きつり顔を出していた。こいつ、本当にマジマジなんだ……ここで正直に言うが、俺も高橋と同様に今の言葉に動揺したんだわ。

「やだ、そんなにびっくりしなくてもいいじゃない高橋くん」

「すみません、つい。そうですか……」

 アニキャラ高橋はアニキャラらしく頭をポリポリと掻いていた。

「高橋の奴、馨ちゃんのファンらしいからよぉ」

 俺は二人の会話に入り込む余地を見つけると無意識的にこんな言葉が出ていた。

「え、そうなの? ファンだなんて照れるなぁー」

 馨ちゃんまでアニキャラのように頭をポリポリやっている。

「永沢さん、ちょっと、(ちょく)でいきなり言わないでくださいよ。マジ、俺も照れます」

 また、アニキャラ高橋はポリポリ頭を掻いた。

「で、どうだったの、この前のは?」

 俺は流れのままに馨ちゃんへ聞いた。

「うーん、まあねぇ……」

「なんだよ、歯切れ悪いなぁ。もしかして、その男と結婚しようか悩んでるとか?」

 俺はそんな事を無意識的に言葉に出していたが、なぜだか心臓がバクバクしていた。もしかして、俺、馨ちゃんに気があるのか?

「永沢くん、ストレートに聞いてくるねぇ。別に悩んでなんかないわよ。基本的に私、結婚に興味無いし」

 馨ちゃんはそう言って俺を見た。なんだよ、そこで俺を見るなよ。俺は興味なさげさをアピールするべく黙って残りの飯をがっついた。

「自分も実際、結婚って興味無いんですよね。親が早いうちに離婚しちゃってるんでそのせいかもしれないけど」

 高橋はシリアス路線で結婚話に持ち込む。たしかに結婚が気になる年頃ではあるだろうが、俺には関係ないっす。

「そうなんだ。私のところもなんだ。やっぱり親の影響ってあるよね」

「結婚制度自体、なんかオレはナンセンスな感じがして仕方ないんですよ。それにCu-pidシステムって、要は子供を作らせたいシステムなんですよね?」

「そうね。35歳までに子供二人以上作ると色々と優遇されるしね。実際、私の友達まわりとかは結構上手くまとまってる子、多いんだよね。ヘタに恋愛駆け引きやって一緒になるより安心感があるって言ってたわよ」

「なるほどね。わからないでもないですね。いっそう若いうちに熱い恋愛して上手く家庭が築ければ、それはそれで良いんでしょうけど、30にもなってくると色々と将来のことやら何やらと考えて打算的な思考になってきますからね」

「だからこの制度ができたらしいわね。ウチの親が言ってたけど、昔は『婚活』なんて言葉があったんだってさ」

「コンカツ?」

「結婚活動の略だって」

「へぇー、面白いですね。昔は昔で色々あったんですね」

 俺は結局、二人が乳くりくりし合うような会話を黙って聞いていた。

 っつーか、『別にどうでもいいじゃあん』っていう内容すぎてついていけなくなっていたんだな。そんなことで飯を食い終わっていた俺はとっととこの場を退散して今夜の戦闘プランの書き込みをネットでチェックすることにしたよ。

(しかし置いてきぼりってなんだか淋しい気持ちになるよな……)

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