第5節 馨ちゃんと高橋。プラス俺……かよっ!
そんなことで俺と高橋とで仲良く地下へとビジター二人の遺体を運んだ。
「よぉ、馨ちゃん! また来たよ」
「どうも、おはようございます、鹿島さん」
さっき俺が連れてきた爺さんはもうすでに居なくなっていて、馨ちゃんは別の人間の化粧に取り掛かっていた。
「ああ、高橋くん。おはよう」
「これ、こちらの方たちのノートです」
「ありがとう。夫婦一緒にかぁ……」
馨ちゃんは高橋からフィルムノートを受け取って俺達が連れてきた二人を見て溜息を出している。そんな馨ちゃんのブルーがかった表情がちょっぴりセクシーに見えた永沢守32歳の心。
「なんか毎日の事なんですけれど、こうやって夫婦で一緒に死ぬというのが本当に幸せなのかどうかとか考えちゃいますよ」
高橋は馨ちゃんに合わせてかブルーちっくな表情を作って湿っぽい会話で繋いでいる。俺はそんなネバネバした空気は苦手だからな。容赦なく割って入るわけだ。
「で、どうだったのよ、馨ちゃん。見合いは?」
俺の言葉は二人の注目を浴びた。
「永沢さん。今、この空間に居ながらどうしてその言葉が沸いてくるんですか?」
「気にならないのか? 高橋?」
俺は真剣に高橋へ問いかけると、俺の真剣さが通じたのか高橋は顔がなんだか一瞬引き締まった感じになって馨ちゃんに向かって言った。
「気になります」
その高橋の言葉に馨ちゃんは目を丸くして軽い驚きを表し、そしてどうしてか俺の頭をパチパチと化粧道具で叩いてきた。
「あんた即行で高橋くんに話たんでしょー!」
「いやいや、鹿島さん。実は俺、来年で30になるから、実際どんなものかなぁと思って聞きたかったんですよ」
ナイスフォロー、タカ。さすが俺のパートナーだ。
「え? そう。高橋くん、もうそんな歳なんだ」
「野暮なこと聞いちゃいますけど、見合いをやったてことは、現在鹿島さんはフリーってことで?」
おいおい高橋の奴、上手いじゃねえか。さらりと自分の必要な情報を入手するために会話の流れに組み込んでくる芸当。
「そうね。そういうことになるかな」
「高橋くんもフリーなの?」
馨ちゃん、なぜ高橋に聞くわけ?
「今、そうなんですよ」
『今』だってさ。そりゃあオマエは俺とちがってモテるだろうよ。俺に彼女がいたのは……思い出したくもねぇ!
「でも高橋くんはモテるでしょう? いつも明るいし、スタイルも良くて男前だと思うけど」
馨ちゃんは高橋と俺を見比べるかのような目線を向けてやがる。たしかに高橋の奴、顔はまずまずだが、いつもハキハキな態度で自信がみなぎっている。そして肩幅広くガチっとした男らしい体つき。身長も170センチ以上ある。男前ベンチマークでは高得点の獲得は固いと思われる。それに比べて俺は170センチ未満のブヨブヨでフニャっとした軟質感たっぷりの体つきで鏡に嫌われている顔つきときている。素体不良に基づき男前ベンチは実施不可レベル。それでも俺、永沢守は生きてます。
「うわぁー、鹿島さんにそんな風に言われると、すんげぇーテレますわ」
アニキャラ高橋は本領発揮で大げさなニタニタ顔に、頭ポリポリやってやがるよ。そこに俺も割り込む。俺を置いてきぼりの会話は許せないぜ。
「俺も実はフリーなんだわ」
「そりゃそうでしょ」
即行の馨ちゃんと高橋。
「なんだよ、そのお前らのハモり」
「永沢さんがいつも自分で言ってるんじゃないですか。俺は戦闘で忙しいから女にかまっちゃいられないって」
「まだ相変わらずゲーム三昧?」
「そうなんですよ。永沢さんはホント好き物なんですよねぇー」
高橋のやつ軽く俺をダシに使ってやがるな。奴の表情はトロトロになっている。そんな高橋の表情を見ているとなんだかイラっとくるね。なんでだ?
「永沢さん、ありがとうございました。あと、オレがやっとくんで。部屋の方お願いします」
ダシが使い終わったらポイとは、やるな高橋。
「冷てぇー。高橋ぃ、俺一人で帰れって? 寂しいじゃないか」
涼しさを求めてここに来てたわけだが、今はノってる高橋にポイされるのを阻止したいね。
「高橋くん、いいわよ。あとは私の方でやっておくから。部屋の方に戻ってもらって」
「え? そうですか?」
馨ちゃんのナイスフォローに感謝。高橋、ザマ見ろだぜ。
「ほら、鹿島大先生もそう言っているじゃないか。さあさあ、お部屋の片づけに戻ろう」
俺はそう言って高橋の腕を引っ張った。
「鹿島さん、昼にでもちょっと教えてくださいね、見合いの話」
「あいよ」
高橋の残した言葉に馨ちゃんの軽い返事に軽いスマイル。高橋のさらりとした情報収集技術には感心したな。好きなんだね、馨ちゃんのことがホントに。
しかし、高橋のやりとりを直接見て聞いてると、俺はなんか『恋するっていいよなぁ』なんて感じの羨ましい気持ちがどこからともなく沸いてきた気がした……って俺らしくねぇなぁ。どうしたんだ永沢守!