表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

第4節 パートナー高橋

「永沢さん、サボりすぎーっ!」

 3号室に戻ると、高橋が俺の顔を見るなり吠えてきた。ま、いつもの事だけど。

「タカちゃん、ごめんねー」

 いつものように笑ってごまかす。

「もう、この部屋のメイクは済んだんで」

「げっ、マジで? 早いよータカちゃん、早すぎるよー」

「俺が早いんじゃなくて永沢さんがのんびり地下で涼んでたからでしょっ! 次は永沢さん一人で頼みますよ」

「なんだよ、きっついなぁ」

「キツかないっすよ。次は俺が地下行きますからね」

「なんだ、(かおる)ちゃん目当てか?」

 俺の言葉に高橋は背中を丸めて肩をがっくり落とす分かりやすいリアクション。お前はアニメキャラか。

「うわっ、やっぱり鹿島さんが来てたんだ。やられた……永沢さん、今日は鹿島さんが来るって知ってたんでしょ?」

「ああ」

「うわっ。ああってそりゃあ無いっすよー。俺、鹿島さんのファンだって言ったじゃないですかー。ちょっとは後輩の俺に少しは気ぃ使ってくださいよ」

 高橋はそう言って前かがみになり大げさな地団駄を俺に見せた。やっぱりお前はアニメキャラだな。

「高橋ぃー、馨ちゃんをアイドルにするにはキツいだろーが。高橋って熟女好みだったか?」

「熟女って、永沢さん、何言ってるんですか。オレとそんなに歳変わらないですよ。鹿島さんはオレより二つ上だけですから」

「あれ、そうだったか? 高橋ってもうそんな歳だっけ?」

「いま29です」

「おおー、じゃあ、もうすぐじゃん。見合い」

「そうなんっスよぉー。だから鹿島さんに少しでも接触する作戦とらないと」

「そういやぁ、馨ちゃん、最近見合いやったみたいよ」

「え? マジで? で、どうだって?」

「あんまり喋りたがらなかったからダメだったんじゃないの」

「よっしゃあ! オッケー、オッケー」

 体を大きく揺らしながらガッツポーズまでしてはしゃいでやがる。アニキャラ高橋。

「まあ死体相手の仕事だからな。敬遠されやすいわな」

 アニキャラ高橋のノリノリなノリになんだか無意識に俺のトーンが下がった?

「そういうことで永沢さん。次、オレ下行くんで」

「しゃあねぇなぁ。でも制限時間付きな」

「突如の永沢ルールですか? いや、こればかりは先輩の言うことは聞けないっすね」

「安心しろ。邪魔しに行ってやる」

 高橋と馨ちゃん話で盛り上がっていたらイヤホンに木下所長の声が入ってきた。

『永沢・高橋チーム。2号室のビジターが永眠された。直ちに2号室へ』

 俺たちは所長へ素早く返事を返すとお片づけセットを持って部屋を出た。


 お隣2号室前には木下所長がすでに俺達を待っていた。

 通常単独死の場合、関係スタッフは二人以上でしか入室できないことになっている。万一のことがあっちゃいけないって話だ。つまり「殺人」がってことらしいですわ。サスペンスドラマじゃあるまいしそんなことするわっきゃないでしょ。と、俺は思うぞ。

 そういうことで、所長は俺達アフターを待って一緒に部屋に入る。すると部屋では夫婦で寝ていた。これは最近増えてきたパターンだ。ここができた当初は切羽詰まった感のある人間だけが来てたようだが、今はこんな感じで子無しの老夫婦が仲良く一緒に逝くっていうのがトレンドになりつつある。『イク』と『逝く』は極めて近いものなんだと俺は思ったね、初めてこんなのを見た時はさ。お国もなかなか粋なシステムをつくったもんだぜ。


 所長が生体スキャナーで生命反応を確認し、さらに直接触って脈などを調べて死亡確認をする。そして木下所長はいつもの甘く低い声で語る。

「2059年7月1日、10時17分。木村陽一、山田翔子両名の死亡を確認。デバイス記録時間、2059年7月1日、10時00分に作動開始、同日、10時10分に両名とも生命反応消滅」

 これに対し俺達は「はい」と応える……っつぅか、「いや、そりゃあ違う!」なんてことあるわけねぇーっつーの。と俺は毎回毎回、思うのだ。が、ここでの出来事は全部記録されてるんで声でちゃーんと言わなくちゃいかんルールとなっているからだけどな。

 そしてビジター二人のフィルムノートへ木下所長と俺達アフターの確認証明のID登録をして死亡確認は終了。そのあとはみんなで合掌をして俺達のメインワークに入る。


「そう言やあさあ、高橋。次は下に行くって言ったよな?」

「……」

 高橋は腕組んで溜息ついっちゃている。

「二人いるね」

「いますね……」

「一人でいいわけ?」

「……」

「ちょっとキビしいんじゃないですか、高橋くん?」

 俺達の中にできる無言の間。

「別に往復すればいいだけだから構わないけど、俺的には。でも、馨ちゃんとお話なんて余裕は無いかもね、高橋くん」

「……エレベーターまでお願いします」

 高橋はボソりと俺にお願いしてきた。

「え? 何?」

「エレベーターまでお願いします!」

「しゃあなぃなぁ。高橋くん、遠慮はよくないぞ。下まで手伝ってやるから」

「いや、エレベーターまでで良いっすよ」

「水臭いこと言うなよぉー!」

 俺は高橋の肩をモミモミしてあげた。俺に恵みを与えてくれた今回のビジターには感謝だ。これでまた涼みに行ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ