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第25節 悶々ゲロッパ

 ――悶々盆休みが明けると何事も無かったようにアウター業は始まった。そして休み明けは待ってましたとばかりに客が多い。おかげで一瞬にして休み前の状況に戻されちまう。俺の悶々製造マシンもフル稼働だ。


「おはっち! 馨ちゃん!」

「おはようさん」

 ガリガリ・ボディに意外に似合っているスーツ姿の馨ちゃんが目の前にいる。

「今日は目ん玉赤く無ぇなぁー」

 自分で理解不能の言葉が口から出ていた。そして俺の言葉に馨ちゃんは鋭く突き刺すような視線を俺に向けた。俺は固まったよ。


 ――それは馨ちゃんの鋭い眼がやけに色気ある男誘う目に見えちまったからなんだな。


 そして一瞬の間を置いてすぐに馨ちゃんは化粧筆でいつもみたくペチペチ俺の頭を叩いて言った。

「ったく、うるさいなぁー」

「そんなに興奮すんなてぇ、馨ちゃん」


 ――ああ、これだよ。いつも通りだよね。うむ、至って今まで通り。もちろん大人な俺達だからな。あの時にあった出来事なんて笑い話程度に茶化してお仕舞いだ。


 ――しかしなあ、馨ちゃんよぉ。ホントのところはどうなんだい? 


 今の時代、脳みその状態を見ることができたり、パッと見では本物と区別がつかないような義肢、そしてウチの商売になっている装置(デバイス)自殺があったりと、現代科学は日進月歩。おみごとだ。だが、人の考えていることが分かるような装置(デバイス)はない。B級恋愛ゲーム並みに相手のリアクションで判定できりゃあ助かるんだが……

 こんなちんけで幼稚な考えを持っている俺だから悶々に悩まされる。


 そして奴の追い打ち――


「よっしゃ、メシの時間だ。行くぜ、高橋」

「すんません。俺、今日は外飯(そとめし)なんで」

 ニヤつき顔で言う高橋。

「外飯だと?」

「彼女とランチです」

「はぁーっ? 彼女? おおーいっ! 何だよそれっ?」 

「って、実はまだお友達程度ですけどね」

 余裕をかました笑顔で言うところが鼻につくぜ。

「馨ちゃんはもういいのかよ?」

「いいのかよ? って、だって元彼と上手くいってるんでしょ? もう勝負かける気なんて有りませんよ。負け戦はやらない性分なんで。じゃ、待たせちゃってるんで」

 高橋自身の事なんぞどうでもいいわけだが、高橋の言葉に震えたね。

 俺は黙ったまま高橋を見送り食堂へと独り虚しさを抱えて向かった。

(上手くいってるんだってよ……)

「はぁ……」

 溜め息がオートで出る。かつてはキラキラしていたこの食堂も曇って見えるよ。

「はぁ…… んっ?」

 この曇った食堂にいつもの場所で優輝ちゃんが菓子パンを食っているのを発見した。

「優輝ちゃん、元気?」

「ええ、まあ、ぼちぼち」

 素っ気ない返事も相変わらずの優輝ちゃん。

「そっか、ぼちぼちか……」

 俺はそれだけ言って独り黙って飯をガッついた。こんな虚しさをキレイさっぱり消してくれる女神はいないかなぁ……

「はぁ……女神か……」


 他人(ひと)にはあれこれ言いっぱなしの無責任な言葉を並べたてて男女関係を語る俺だが、自分の事には徹底的に臆病になる俺の息子並みミニマム(平常時)ハートと来たもんだ。そしてこいつが災いして、戦友として絆を深めて来たネフレの面々にはつい油断しちまうって流れだ。


『ブライアンさんの不調の原因って、仕事か、お金か…… 恋っ! の悩みでしょう?』

 隊長のリョウさんがいきなりミーティング中に俺に言ったんだな。

『さすがリーダー! かなりの人生経験ありとお見受けした!』

 と武士口調が好きなサムライ小僧さんが言えば、

『じゃあ兄者のここんところの不調は、そのどれかの悩みってことで?』

 今では兄者なんて呼ばれ慕われているロイさんが続く。

『そうでしょう? ブライアンさん?』

「いやいやいやいやいやぁー」

 リョウさんの自信に満ちていた声に俺は言葉をつまらせ「いやいや」と誤魔化しまくりのわかりやすいリアクションで返す。頭ん中はカラッポ。

『かなり長引いてますよね、不調。良かったら話してくださいよ。ガス抜きは必要ですよ』

 リョウさんの声は多分作り変えているんだろうけど口調がやんわりしてて、声だけ聞いているととても指揮官タイプとは思えない。でも、その口調に安心感が湧いて信頼できたりする。

『そうそう。どうせお互いの素性を知らないんだから。むしろここでドバァーっとタレ流しちゃいましょうよ』

 完全に楽しんでいるような言い方で乗ってくるのは、日本男児キャラスタイルのカオルさんだ。男キャラとは言え、なんて迷惑な名前だよ…… 

 結局、缶ビール片手に俺はあの悶々飲み会の事からその他もろもろ、事細かに話した。メンバー全員リラックスモードで俺と同様にみんなも飲んでいるようだ。酒の肴には持って来いのこのネタ。俺のサービス精神旺盛さには自分自身に脱帽だ。


 みんなは「なるほどー」とか「うんうん」などと相槌をしつつ聞いていた。アバターは各自のカメラで顔の表情を読み取りリンクしているのでまるで連れの部屋で語りあっているかのような感じだ。顔は赤くなってるしよぉ……


 ――カオルさんが言ってたように相手の事をリアルでは何も知らない。そんな相手に自分のおっ恥ずかしいリアル話を勢いに任せて話した。不思議なもんだ。話を垂れ流したら、飲みすぎて気持ち悪かったのがゲロってスッキリとなるように悶々感も薄れっていった。

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