第24節 ラブレターと日めくりカレンダー
俺は置いてきぼりを食らわないよう急いで二人のケツを追った。階段を登っていると目の前に黒タイツで生肌を隠した美雨ちゃんの脚が嫌でも目に入る。その脚の感じは馨ちゃんを思い起こさせた。
(でも、やっぱ子供は子供だな)
顔つきは完成度高い大人な感じだが脚の肉づき具合は馨ちゃんのほうが断然色っぽい。
と、そんなことを思うも優輝ちゃん家の玄関の前までやって来ると俺の脳裏に優輝ちゃんの顔が浮かんだ。
(優輝ちゃんゴメンよ。美雨ちゃんの脚をエロい目で見ちまって)
美雨ちゃんがドアロックを解除してドアノブに手をかけると同時に可愛いころんとした声を出した。
「あれ? ポストに何か入ってる」
そして美雨ちゃんはドアの裏側を覗き込みポストのフタへ手をまわした。俺は興味津津で美雨ちゃんの背後へサクッと回り込む。美雨ちゃんがフタを開けるとバサバサッと大量の紙切れが落ちてきた。
「きゃっ」
「なんだこりゃあ?」
美雨ちゃんはしゃがみ込んで紙切れの山から一枚を取った。
「これ……」
「何が書いてあるの?」
俺は美雨ちゃんの後ろから覆いかぶさるように覗き込むとそこには『橘君一度でいいから電話かメールをもらえないか? 木下』なんて書いてあった。
他の紙切れを見てみても同じように優輝ちゃんへのメッセージが色々と書いてあった。こいつは正にラブレターだ。
「所長は優輝ちゃんに恋をしてたんです?」
と俺は木下所長の背中に向かって言葉をかけた。
「彼の目に触れることは無かったようだな」
と所長は素っ気ない態度を見せてそのまま部屋へあがりこんでいった。
美雨ちゃんが一生懸命ラブレターを集めているのを見て俺は一緒に集めてから部屋に入った。
「所長。自分が書いたラブレターなんだから自分で拾ってくださいよぉ」
「そんなの良いですよ、永沢さん。これは私が大事に保管しておきます」
所長は俺たちの言葉に耳を貸すことも無く黙ったまま部屋の中を見渡している。
優輝ちゃんの家に来るのは実は初めてだ。
「たまには優輝ちゃん家で一緒にコンビニ弁当食おうぜ」って俺が言うと、「部屋狭いし遊ぶものも無いですから永沢さんが退屈するだけですよ」なんて優輝ちゃんは言ってた。
部屋の広さは俺の部屋と同じ8畳くらいだな。俺の部屋と違うのは生活するのに最低限必要なものしかない殺風景なところだ。
「狭いっていうのは大ウソだな」
俺の独り言が何も無いだけに広く感じる部屋に響く。そんな殺風景な部屋の壁にやたら目を引く日めくりカレンダーが掛けてあるのを見つけた。
「優輝ちゃんの趣味か。年寄り臭いカレンダーだなぁ。でもなんで23日になってるんだ? 優輝ちゃんがここを空けたのは15日だよな?」
「それ、8月の23日です……」
美雨ちゃんがぽそりと答えてくれた。
「お、ホントだ。8月だよ。8月23日? で、なんで8月23日?」
俺の質問を受けた美雨ちゃんは質問を受け渡すように木下所長に同じ質問をした。
「木下所長。8月23日に兄に何かあったのですか? 所長はご存知なのですよね?」
所長は美雨ちゃんに質問されてなんだか緊張しているみたいだ。俺はそんな所長を初めて見たな。
「永沢は何も知らないのか?」
「知ってるなら聞きゃしませんよ」
記憶力の無さには自信がある俺だ。明日は明日の風が吹く。特に都合の悪い事は便所で出して流さなきゃ臭くて仕方ねぇ。と思っちゃってる訳だが今は思い出してみる。
「8月23日か……約3か月前だな。8月と言えば……」
(悶々……)
今年の盆休みは頭ん中を馨ちゃんに支配されていたおかげで充実感、満足感の無い、悶々盆休みだったな……