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第16節 奈落

 リニモから改札口まで客の群れに押されるように俺達はやってきた。そのせいで悲しい事にののちゃんを中心としたコンダクター女子隊を見失った。

「クソっ、コンダクター女子隊がいなくなっちまったぜ」

「拘ってますねぇ、永沢さん」

 スマートフォンを見ながら言う高橋。

「少しでも仲良くなっておいた方がいいだろう?」

「どうせ、この後すぐ一緒の店で飲むんだから別にいいじゃないですか」

 その高橋の口調はいつも以上に(とん)がった感じに俺に聞こえた。

「馨ちゃんからの連絡がないのがよっぽど寂しいのか?」

「は? 別に気にしてませんよ」

「スマートばっか気にしてるくせに。しかもトキトキしたしゃべりだし」

「気のせいですよ」

「俺の気のせいか?」

「そうです、永沢さんの気のせいです」

「そうか」

 こういうのは言ってる本人は分かっちゃいないんだな。いつもは目を見て話す奴が目を合わせずしゃべるわ、そして普段は手に持ち歩かないスマートフォンをずっと手で持ってんだからな。何がそんなに心配なんだ? 

(ま、いいか。他人(ひと)の事は)


 飲み会会場の店へ行くと入り口には幹事をやってくれているコンダクターのメガネ君が突っ立っていた。俺はメガネ君の名前をすでに忘れていたんでとりあえず笑顔で「ども、どもー」とごあいさつ。

 こんな時にゃ便利な日本(ニッポン)のあいさつ、「どうも」を活用しなくちゃな。

「どうも、お疲れ様です。すいません、皆さんこの袋の中から一枚紙を取ってもらえますか?」

 メガネ君はそう言って俺達の前でコンビニ袋の口を広げた。

「もしかして席決めですか?」

 トキトキ高橋から意外に鋭い質問。

「そうです。人数が多いからテーブルの位置だけにしてますけど。きっとこんな風にしないとみんな顔見知りだけで固まっちゃうでしょ?」

「お、なかなか粋な事やってくれるねぇー」

 なんて良い奴なんだ。俺は名前を忘れたメガネ君の肩をモミモミしてあげた。そして俺はそそくさと袋に手を突っ込み、紙切れの集まりから一枚取った。

「これは今日の運勢を占うくじ引きだぜ。あっ、4番だ……」

「さすが永沢さん。アフターの鏡ですね」

 野郎軍団の一人が言った。

「おいおい、縁起悪い数字を用意しちゃイカンだろー」

 俺はメガネ君のモミモミパワーを数段上げた。

「痛いですよー、永沢さぁん。すみません、そんなこと何も考えてませんでしたよ。意外に縁起を担ぐタイプですか?」

「もちろん全く気にしねぇよ。ジョークジョーク。俺がそんなこと気にするわきゃ無いぜ。()はシアワセのシなんだぜ。ククク、楽しみだぜ。で、高橋はどうよ?」

「俺は10です。これ、男女分けとかあるんですか?」

 さり気なくナイスな質問だぜ、トキトキ高橋。

「いえ、残念ながら。もしかして期待してました?」

「えーっ!」

 メガネ君の言葉に俺と、その他の野郎共は声を出して大きく落胆した。

「っつーことは野郎ばっかりってこともあるのかよ?」

「ですね。すべては運です」

 俺の重要な質問にメガネの兄ちゃんはニンマリ顔で答えた。

「残念でしたね、永沢さん。まぁ合コンじゃないからそりゃそうでしょ」

 トキトキ高橋は心無いトキトキ・スマイルで俺に言った。

「なんだよ、オマエが期待持たせるような質問をしたんだろうが!」

「まあまあ、後のお楽しみって事で。どうぞ。場所は2階です。あと、会費を2階にいるもう一人の幹事へ渡してください」

「どうせ宴会始りゃあぐっちゃぐっちゃになるから気にするこっちゃねえな」

 と自分に言い聞かせた。


 ――縁起はやっぱ担ぐものかも知れない。4は死を意味しているに違いない……


 4番テーブルは俺とアウター小島以外は見事に女だらけとなった。だがな、俺の想像した世界からは遥か遠く、悪夢と言わなくちゃいかん状況だ。俺は自分の運の無さを心底呪ったよ……

 

 女って言うのは見覚えがない化粧臭い年増女軍団だったんだ――


(おいおい、どこから沸いてきたんだ? ライフ・ケアにいたのかよ、こんなにオバサン達が……)

 だが、ちょっと考えりゃあ覚えがないのは当たり前だ。俺の目にはオートでモザイクが入っていたから。俺の目には脂の乗った女子しか映らないよう脳みそが設計されている。

 しかしまあ年増女軍団はウルせぇー事って言ったらありゃしない。座るや否や喋る喋る。俺は開宴前にアフターについて尋問攻めにあった。大人な俺はもちろんハッタリで塗り固めたにこやか(、、、、)スマイルで丁寧に答えてやったさ。ったく疲れるわ……

 畜生。それに引き換え高橋のヤツは見事に俺が夢見たコンダクター女子、今の俺の気持ちから言ったら女神たちと言っていい女子たちに囲まれキャッキャッキャッキャッと何やらはしゃいでいる。だが何を喋っているのかはまったく聞こえない。すべては年増軍団の人並み外れたトークの音量が完璧に女神たちの声をかき消しているからだ。

(これは地獄の一丁目……?)

 俺は考えちゃいかん言葉を頭に思い浮かべちまった。いかんいかん。すべては理想を掲げて行動しなくちゃな。マイナス指向はイカン!

(宴会始りゃあどうせぐっちゃぐっちゃになるさ。そしたらパラダイスへGoだ!)

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