第13節 ウキッ?
優輝ちゃんが消えて俺と高橋と馨ちゃんが残った。そこで俺はすかさず気になっていた事を馨ちゃんへ聞いた。
「なぁ、馨ちゃん。手伝いに二人来てたっていうのは誰よ?」
「何よ、いきなりに」
「女かどうだったかってことでしょ?」
高橋は知った風に生意気顔で言った。
「そのとおりだ高橋」
高橋は賢い奴だ。
「永沢さん、安心してください。みんな男でしたから」
「よし」
「だから永沢さんに声をかけなかったんですよ」
「よし」
賢い高橋に感心した。わざわざ面倒な外飯を野郎と食ったって楽しくない。
「トニーと山田くんよ」
馨ちゃんは手にしていた缶コーヒーを飲み干して言った。
「っちゅーことか。じゃあ、許す。っちゅーことは馨ちゃんは若い男3人を囲って昼飯を満喫したわけだな」
「アンタと違うから別に若いとか男だからとかは関係ないわよ」
「そーかねぇー、随分と口元が緩んでるように見えるがな」
俺は馨ちゃんの口ぶりはいつも通りでも、声の調子がちょいと高い。機嫌が良いということはバレバレだ。俺の動物的感覚で優れた耳が反応している。しかも馨ちゃんからいつも以上に女特有の臭いがプンプン出てるぜ。この女臭に俺のお股が危うく反応しちまいそうだ。飢えている三十路男の本性かもしれねぇ……
「嫌だ、どこ、見てんのよ。イヤらしい」
馨ちゃんはらしくもない照れた表情をして言った……らしくねぇー。マジ、らしくねぇーわぁ。
まさか高橋は着々と馨ちゃんの心を侵略しているのか?――
なぁんてホントは全く気にもしていないことが脳裏をよぎったりしちゃって、まったく俺も、“らしくねぇー”わ。ホントホント。
「アホか。ホントに口を見てるわっきゃないだろうが」
「そうですよ、永沢さんは若い子しか興味ないですから」
と高橋は口走った。
「うわっ、高橋くん! なんかそういう言われ方すると胸が痛む……」
馨ちゃんはそう言って薄っぺらな胸を押える。
「いやいやいやいやいや、そういう意味じゃないっすよ」
「なんていうのは、もちろん冗談だけどね」
アニキャラ高橋特有のビッグリアクションの否定に、馨ちゃんはまた可愛いこぶって高橋に笑って応えていた。
(なんだコイツら。気持ち悪ぃ……)
俺は今度のウハウハ飲み会の話が遠ざかっていく勢いのコイツらの気持ちの悪い会話には付き合いきれねぇよ。
と、呆れているところで午後一番スタート時間5分前のチャイムがヘッドセットイヤホンから鳴った。
「おっと、もう時間だ。高橋、行くぜ」
「はい。それじゃ、鹿島さん、また」
「うん。じゃ」
馨ちゃんは高橋に対してか、それとも俺達に対してかは知らないが手のひらを大きく広げるのと合わせて、目をパッチリと見開いて挨拶した。
(なんじゃ、こりゃ……)
今年の夏は何かが今までとはが違うぞ。俺の頭の中の猿たちがそわそわしている。そんなことを強く感じたんだな。