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第1節 出動!

 第三章始まりました。一章、二章と読み進めてきてくださった方、お待たせしました。アフター、永沢守編です。

 最初のあらすじ説明で分かるかと思いますが、今までとは相当ノリが違います。コメディタッチ路線で展開されますのでよろしくお願いします。

 また、「自滅支援事業」をここで初めて知った方、お暇があれば他の章も読んでいただけると物語をより理解しやすくなるかと思います。

第一章 橘優輝 http://ncode.syosetu.com/n3606j/

第二章 木下航路 http://ncode.syosetu.com/n7290j/

 俺達は息を潜め、ただジッとしていること5分は経っただろうか?

『ライアンさん、お待たせ。こちらは今から突入します。突入後、すぐアタックよろしくっ』

 隊長役のリョウさんから交信が入った。

「了解」

 俺は短く返し、俺と一緒に動いている新人のロイさんも同時に返事をし、俺の横で伏せた状態でおとなしくしている。

「すんげぇー、緊張しますね。オレめちゃくちゃヤバいっす」

「ちびんじゃねぇーぞ」

 ロイさんは声質と口調からするとかなり若そうだが、モニターに写っているロイさんのキャラは渋い中年男のヒゲキャラでマッチングしてねぇから妙に笑える。

『突入!』

 リョウさんの合図とともに俺の耳に爆音が響き微弱の振動を感じた。そしてビルの一階から黒煙が見えた。

「いくぞロイさん!」

「了解!」

 俺達は立ち上がり向かいのビルへワイヤーロープを渡し、ロープを伝って屋上から潜入する。相手チームがいる建物は6階建てで、1階2階は吹き抜けになっている。恐らく、2階をベースにして奴等は待ち構えていると考えて、俺達は隊長達のエキスパートチームが囮となって奴らの気を下の方に向けている間に、上から奇襲をかけるという作戦だ。そしてこのビルを制圧したら俺達「チーム・ビッグマック」の勝ちとなる。

 この世界で嬉しいのが現実での俺ではとてもできない芸当を軽々とやってのけることだ。こんなロープにぶら下がってビルを渡るなんて俺じゃ絶対できない。モニターに俺の分身であるライアンの視界にビルの屋上が近づいてくる。そして、屋上に到着すると俺はイスの肘掛けに固定してある専用コントローラーを操作して入り口付近に移動する。振り返るとロイさんがライフルを構えて走ってくる。

 わずかだが耳に銃声が聞こえる。下ではドンパチ派手にやっているようだ。

「ロイさん、ここの扉を爆破するから下がってて」

 ロイさんは「了解」と応え、ゲームらしくやや不自然な動きでこちらを見たまま5メートルほど後退した。俺はこれを確認してから入り口に爆薬をセットしすぐさまロイさんと同じ場所まで下がった。そして起爆ボタンを押す。

「うっ!」

 爆発は俺が想像していた以上の大きさでヘッドフォンから聞こえる爆音は耳が痛くなるほどだった。そして爆破で飛び散った扉周辺の爆破片が俺の身体にいくつかあたり軽い痛みを感じた。このゲームのオプション装置で脳へ直接、擬似的な痛みや揺れ、振動といった感覚を感じさせる装置があり俺はそれを装着している。これがあるのと無いのとでは感情移入度が格段に違う。俺は興奮した。

「やるじゃねぇか。あいつら始まってすぐ爆薬をここの扉にしかけてきたな。いや、もしかしたら上にもいるな」

「ずけぇ爆発でしたね。トレーニングモードじゃこんなのなかったからあせりましたよ」

「これが戦場だよ。多分、上にもいるから警戒して侵入するぞ」

 俺たちはもとの扉の大きさよりも倍以上の大きさに崩れた入り口の壁に背を向け張り付いた。下の方ではかなり激しくやりあっているようだ。銃声と爆音がより明確に、そして休む間もなく鳴り響いている。俺は慎重に耳を澄ましながら壁に背を向けた状態のまま建物の中を覗き込んだ。爆破の影響でまだ少し煙が残っているが視界はほぼ良好だ。中はすぐ下へ降りる階段となっている。誰もいないようだ。俺はそのまま一歩踏み込んだ。するとその途端、パパパッと乾いた銃声が響き俺の頭上から粉が舞った。あわてて俺は後ろへ下がり伏せた。ロイさんも俺に合わせて横で伏せていた。

「くそっ。やっぱりいやがった!」

 その後の戦闘はすさまじかった。俺が先行で攻撃をしかけ、一つ下のフロアへ入れたものの敵の布陣はなかなかのもので、ロイさんのバックアップでは不足し俺は簡単に手足を負傷。ロイさんは俺を守ろうとしたが、目の前で無残にも体に数十発の銃弾を受け血まみれで倒れた。

 このゲームは21歳以上の制限がある。それはその映像表現がリアルだからだ。ロイさんのキャラのまわりは大量の血であふれ、体の中身までもが顔を出している。そして奴等は容赦なく、最後にロケットランチャーで俺たちを木っ端微塵とした。

 結局、今回のミッションは破れ、みんな悔しさいっぱいになり再戦を申し込んだ。そしてお互いのチームは舞台をその都度変えて朝まで熱くやりあった。結果は3勝3敗のイーブン。メンバーや相手さんの時間の都合でここでゲームは終わった。また今晩ミーティングを開こうとリョウさんからの言葉を最後にメンバーみんなが去ると俺はそのまま軽く息をほっと吐き目を瞑ったら数秒のうちに寝てしまった。


 遠くから何やら鐘の鳴り響く音が聞こえている気がする。あれ? 今日の戦闘にはまだ早いよな……

 じゃない! 今日は早出なのをうっかり忘れていた。パソコンのアラームを停めるとすぐに俺はシートから飛び起き顔を洗い服だけ着替えると外へ出た。何か頭がもぞもぞと痒みを感じた。そういや俺、風呂入ってないな。昨日も、たしか一昨日も。それになんか体臭が気になる?

 なーんて思ったが仕方が無い。毎晩戦場で戦っていたんだし。

「ま、いいや」

 とにかく遅刻だけはしない信条なんだ。理由はない。俺はアパートの階段を駆け下り、向かえにあるシェア・カーに乗り込んだ。


 久しぶりの早出だ。今日は病院からのお客さんが来るということで、そのお相手をしなくちゃいけない。この時間は通勤ラッシュとかかるから本当は嫌なんだけれど、仕事だから仕方ない。普段なら20分ほどで到着するところを今日は35分近くかかった。

 しかし、眠い。昨日はマジ疲れたなぁ。さすがのリョウさんの指揮でも結局6戦中3勝のイーブンだったからな。今回は新人さんがいたにしても敵はなかなかだな。これは面白くなってきたぜ。

「くぅわー、やっぱ眠い眠い……」

 俺は昨日の戦闘の記憶を呼び覚まし、反省点をいくつか出しながら歩いていると優輝(ゆうき)ちゃんがトボトボと覇気のない顔して歩いてきた。優輝ちゃんも寝不足? いやいや、いつもヤツはあんなんだな。

「おはようございます……」

 優輝ちゃんは俺にチラッと一瞬だけ目を合わせると覇気のないトーンで挨拶をくれた。

「うーっす」

 俺もトーンを合わせて応える。

「今日は早出ですか?」

「おぅ。今日は病院からのお客さんが集中していてよぉ。午前中だけでも10件はあるらしいわ」

「ヘビーですね……」

 俺たちはここライフ・ケア・ステーションが始まった時から一緒だ。優輝ちゃんは当初からこんな感じで気のない返事が得意だ。そんな感じのせいか、なかなか回りの皆とは打ち解けあわないみたい。でも、なんかそれでも優輝ちゃんは憎めない感じで俺はついつい絡みたくなっちゃうんだな。

「永沢さん……また風呂入ってないですよね? 臭いますよ、マジで」

「ちぇっ。相変わらずサラっと言ってくれるねぇユウキちゃん。どうせオレはアフターだから、別にちょっと臭ったって誰も気にしないよ」

 そうそう。優輝ちゃんはねぇ、結構ツッコミがキツイんだよね。これが普通はそんなこと言わないだろう見たいなことを簡単に今みたいに言っちゃうの。まあ、ちょっとグサりときたりするけど、そう言ってくれるのが有難かったりしたり。俺もアホだねー。

「それより昨日は大変だったんだって。いつものヤツやってたんだけど、昨日は新顔のチームが参戦してきたんだわ。それが、こいつら()()強くてさぁ。(名古屋弁で『すげぇ強い』ってこと)だもんでメンバーみんな熱くなっちゃって、結局朝までってわけ。風呂入る時間なんてあるわけないよ。あーあ、ゲームやったまんま身体洗ってくれる機械ねぇかなぁー、っつうか、風呂入らなくていい身体が欲しいよ」

 優輝ちゃんは俺の話を完全に聞き流してる感じで通用口へと黙々と歩いていく。俺も黙々と歩く。しかし、やっぱり3日も風呂入ってないとやっぱり臭うよなあ……後でちゃっちゃと(名古屋弁で『急いで』ってこと)シャワー浴びてやろうっと。

 俺たちは通用口のセキュリティーチェッカーで個人認証をして入所していく。そしてまた入所したところで優輝ちゃんのツッコミが来た。

「絶対、所長に会ったら言われますよ」

「何が?」

「いや、臭いですよ」

「まだ言うか」

「言います」

 そうだよね。優輝ちゃんの言う通りだけに俺も観念して白状しちゃおう。

「ごめん、三日入ってない」

 俺の言葉に優輝ちゃんは身を仰け反らし顔をしかめて黙った。その仰け反り具合が優輝ちゃんぽくないリアクションだったんで、ちょっと可笑しかった。

「しかしユウキちゃんはよくこのクソ暑い中ケッタ(自転車のことね。これも名古屋弁だ)で来るなぁ。頭おかしくなるぞ?」

「歩いてきたらもっとキツいっすよ」

「どうせならもうちょっと遠くに住んでリニモか車で来やあいいのに」

 ちなみにリニモっていうのは21世紀初めにやった愛知万博とかいう博覧会の時に作られたリニアモーターで動く交通機関のことよ。

「リニモなんか絶対嫌ですよ。ラッシュ時なんかに乗ったら死にますよ。それにオレ、車の免許は持ってないです」

「そういやあ、そうだったな。所長にでも言って免許取らせてもらえよ。ユウキちゃんはワーカーじゃないから免許無くてもいいんだろうけど、うまいこと言ってここの金で取らせてもらえるんじゃね?」

「面倒くさいからいいですよ」

 そんな適当な会話で風呂に入ってないことを誤魔化そうとしていたらロッカールームから所長が登場してしまった。

「おっおはよ……おい、永沢っ! またオマエ風呂も入らずゲームばかりやってたのか? この暑い時期に勘弁してくないか。アフターだからって思ってたら大間違いだぞ。時間やるから急いでシャワー浴びて来い!」

 普段は落ち着いていて冷静な木下所長も露骨に顔を歪めて俺に言った。いやいや優輝ちゃんのご指摘どおりだよ。とにかく逃げちゃおう。俺は所長に照れ笑いを見せてロッカールームへ入った。


 所長といきなり会うとは思っていなかったから驚いたけど逆に助かったな。所長からシャワーを指示されたからこれで心置きなくシャワーを浴びられる。なんといっても連戦による汗が蓄積されていたからなあ。

「おはよう! さあさあ、シャワー、シャワー」

 俺はロッカールームにいた皆さんに挨拶し、ロッカーに自分の荷物を放り込むとそのままシャワールームへと向かった。

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