志願兵の恋 6
「大丈夫? 寒くない?」
「うん。正直、ちょっとだけ」
心配そうな問いかけに、永田は笑って答えた。十数メートル離れた車内で待ってくれているマイキーから、JIASのロゴ入りジャンパーを借りてきてよかったと思う。信州の十月は、この時間になるとさすがに肌寒さを感じるほどだ。
「ごめんね、本当に山奥で。何もないって言ったのも、嘘じゃなかったでしょう」
恥ずかしそうに彼女が笑う。いつの間にか周囲は薄暗くなって、澄んだ空には鮮やかな月と、複数の星が瞬いている。
「ていうか、来てくれたんだ」
彼女――雪の顔が、さらにはにかむ。
「来ないと思った?」
「ううん。ほんとはちょっと前から感じてた」
上目遣いで答えられ、永田は心拍数が少しだけ上がるのを自覚した。
「ああ、そっか」
「うん。こっそり力を使って、アンテナ張ってたの」
小さく舌を出した雪は、「これを見ながら」と手に持っていた何かを永田に向けた。
「あ!」
「相手をイメージすると読み取りやすくなるの。といっても、あなたの顔はもう頭に焼き付いてるけど」
恥ずかしそうにうつむく彼女の手元。そこにあるのは、出会ったばかりの頃によく持っていたタブレット端末だった。
「初日の夜にはもう、描き上げてたんだよ」
「うん」
永田自身も照れながら画面を見つめる。自分の似顔絵が描かれた、小さなスクリーンを。
「優しそうで素敵な人、って思ったから」
薄闇のなかでも、雪の頬や耳が赤くなっているのがはっきりとわかった。決して肌寒さのせいではないだろう。さすがにそれくらいは理解できる。
「ありがとう。それでさ、ええっと……」
自分の顔も赤いことを自覚しつつ、永田は必死に言葉を続けた。
「その……すぐわかった?」
「え?」
「いや、俺がマイキーさんの車で、ここに向かってること」
「もちろん」
動揺のあまりどうでもいいことを言い出した永田を見て、逆に雪は、普段の調子を取り戻したようだ。顔を上げて、いたずらっぽく笑ってみせる。
「だから浮気も許されません。逃げられないんだからね」
「す、するわけないでしょ!」
やっぱり敵わないな、と永田は思う。
そして何より。
やっぱり、この笑顔が好きだ。
開き直れたからだろうか、自然に口が動いていた。
「それ以前の問題として、さ」
「うん?」
「ちゃんと返事、してなかったよね」
言われた雪が「あ、ごめん!」と口に手を当てた。やはりあれは、初めてのときと同じく、思わず使ってしまった力だったらしい。
「だ、だってしょうがないでしょ。あんな状況だったし、みんなもいたし……」
ふたたび頬を染める彼女が、心の底から愛おしい。大切にしよう。離れている二年間も、それからも。ずっと、ずっと。
「ユッキー」
初めてそう呼ばれた目が、ハッと見開かれる。
「俺も、好きだよ」
瞬く星の下、永田は彼女を力強く抱き寄せた。
Fin.




