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アイドルの恋 3

「姉さん!?」


 見事に重なった三人の声に、苦笑した雪はあらためて教えてくれた。


「うん。彼、私の弟なの。日波(つなぐ)。高校二年生」

「初めまして」


 もう一度、今度は全員に向かってお辞儀をする繋に対して、雪は不思議そうに続けた。


「ていうか、なんであんたがここにいるのよ?」

「俺も二学期から、ボラ同に入ったんだよ。二、三日かけていろんな活動先を見学させてもらって、今日から正式にTTCの担当になったんだ。あ、言っとくけど、別に姉さんがいるからとかじゃなくて、たまたまだからね」

「ふーん。おばあちゃんあたりに、何か言われたんじゃないの?」

「違うって。中学のときから塾で知り合いだったリリが、誘ってくれたんだ」

「あら、リリちゃんのこと前から知ってたんだ? なあに? 好きなの?」

「なんでそうなるんだよ!」


 いたずらっぽい笑顔で弟をからかう雪を見ながら、永田はデジャヴめいた感覚を抱いた。自分にもしょっちゅう向けられる、お得意の口調や表情は、こうして培われたものらしい。弟君には悪いが、原点を垣間見た気がしてなんだかおかしくもある。


「日波さんの弟さんかあ。言われて見れば、たしかに」

「そう?」

「うん。目の形が綺麗なとことか、似てるかも」


 笑みを浮かべたまま永田が伝えると、雪はちょっぴり照れた表情を見せた。


「ありがとう。だってさ、繋」

「ど、どうも」


 いきなり振るなよ、という視線を姉に投げつつ、繋もまた恥ずかしげに小さく会釈してくれる。いきなりの過激な乱入で驚かされたが、さっきの雪へのリアクションからもわかるように、本当は素直な少年のようだ。

 続けられた台詞にも、それが表れていた。


「あの、さっきは本当にすいませんでした。リリがいじめられてるんじゃないかって、勘違いしちゃって」


 ニッシーに向き直った繋が、もう一度深々と頭を下げる。


「いいって、いいって。こっちこそ、よくわかんねえけどリリちゃんの機嫌損ねちまって悪かったな。あ、俺は西浦聡。ニッシーって呼んでくれ。よろしく」

「よろしくお願いします」


 繋と笑みを交し合ったニッシーは、永田とカズのことも彼に紹介した。


「こっちの、昭和のトレンディ俳優みたいなのがカズ。森本和茂。俺たち二五-二の仕切り役っつーか、学級委員みたいなポジション」

「よろしく」


 カズも笑顔で会釈する。


「よろしくお願いします」

「さっきリリちゃんを追っかけてったのは、看護師の菅美優子。あだ名はミユ。そんでもって、今日もだけど君の姉ちゃんの隣っていう美味しいポジションによくいる、その若年寄みたいなのがヒデだ。永田秀樹」

「ニッシーさん。もうちょっと、ちゃんと紹介してくださいよ」

「そうか? じゃあ、風呂上りに夜な夜なユッキーと逢引してるむっつり――」

「やっぱりいいです」


 呆れ顔でニッシーの暴言をさえぎる永田を見て、繋は「へえ」とつぶやいた。


「姉ちゃんの彼氏さんですか? 姉がいつもお世話になってます」

「いや、そういうんじゃないから!」


 すかさず否定した永田は、おそるおそる隣を盗み見た。さっきの怒った顔と厳しい口調が思い出されて若干ひやりとしたが、雪も困った感じの微笑で肩をすくめただけだった。


 よかった……。


 永田の心配など気にもせず、ニッシーは能天気な調子で繋に話し続けている。


「そうだ。彼氏といえば繋君こそ、リリちゃんの彼氏じゃねえかって噂されてるぞ」

「え? 僕がですか?」

「ああ。何日か前に、すぐそこのサービスエリアでリリちゃんとお茶してたのって、繋君じゃねえの? 見たやつが、同級生っぽい眼鏡男子って言ってたから」

「ああ、それはたしかに僕です。岳ヶ根サービスエリアもボラ同の派遣先なんで、彼女に案内してもらって見学した日ですね。あ、僕のことも呼び捨てでいいですよ。皆さんもツナグでお願いします。先生や友達もそう呼んでくれるんで」

「OK、繋。で、実際のところどうなんだ?」


 ニッシーの好奇心というか、野次馬根性は相変わらずである。ただ、彼の場合はこうした質問もカラッとした感じしか受けないので、聞かれた方も不快に感じることはないのだろう。繋も笑って質問を否定する。


「永田さんと姉ちゃんじゃないですけど、僕たちもそういう関係じゃありませんよ。さっきも言ったように、塾が同じで中学の頃から知り合いなだけです」


 姉と同様、律儀に自分のことを名字で呼んでくれる彼と目が合い、永田も苦笑いを返しておいた。


「それにリリは最近、気になる人ができたって言ってましたから」


 付け加えられた台詞に、ニッシーを除く全員が大きく頷いたのだった。

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