まさか戦うよりも見つけるほうが大変だなんて思わないだろ。
町から出ると、レイリヤの言った通り少し進んだところに森があるのが目視で確認できた。
近いのは素直に助かるなぁ。この程度の距離なら毎日通うことになっても特に問題はなさそうだ。精神的にきつくなることもないだろう。
「あそこに見えるのがセルンスの森よ。モンスターはあまり森の端のほうには寄ってこないけど、森に入ったらいつでも戦闘できるよう心構えをしておいて」
「わかりました。ゴブリン相手にも油断せず、相手をします」
「いい心がけね。特にデンジロウは防具も着ていないのだから気を付けないといけないわ。一発の攻撃が命取りになる可能性もあるわよ」
確かに、普通の人だったら防具を着ていないところにモンスターの攻撃をもらってしまったら、怪我は免れないだろうな。でも俺は違う。神様の力のほとんどすべて受け継いだ俺なら攻撃されても無傷だろう。試したわけではないがなんとなくわかる。
森に近づいてくると、よくない気配が漂っているのがわかる。これも神様の力の恩恵だろう。モンスターという邪悪な存在に反応しているのだ。
「さあ行くわよ。私が前を歩いてもいいけど、デンジロウの訓練のためにやめておくわ。普通に横並びで行きましょう」
「はい。俺は左側を歩きます。こっちは任せてください」
俺が左、レイリヤが右を警戒して森を進む。
流石に入ってすぐはモンスターの気配がないが、冒険者としての経験がない俺にはゴブリンがどこに潜んでいるか見当も付かない。そもそも、気配を消して、奇襲してくるような知能を備えているのかも謎だ。少しレイリヤに聞いておこうかな。
「レイリヤ先輩すいません。ちょっといいですか?」
「どうしたの? 何か気になることでもあった?」
「とりあえず、レイリヤ先輩のおすすめってことでゴブリンの討伐クエストを受注したんですけど、俺ゴブリンのこと何も知らないなって思って。どんなモンスターなんですか?」
小型の人型っていうのは聞いてるけどそれは外見の情報でしかないからな。どういう攻撃をしてくるかとか、群れで行動したりするのか気になることはたくさんある。
「えーと、ゴブリンは初心者向けのモンスターだから、知能は動物とあまり変わらないわ。基本的には数匹の群れで行動していて、上位種であるゴブリンキングやゴブリンロードが率いる群れはより数が多くなるわ。安心して、セルンスの森では上位種が確認されたらすぐに討伐隊が編成されて討伐されてるから」
群れで行動するタイプのモンスターか、ということは群れを見つけてしまえば5体くらいは居るってことだよな。一発でクエストクリアじゃないか。なんだ、探し回ったりしなくていいってのは楽だな。
「それと、ゴブリンは武器を持ってたりするんだけど、主に木で作ったこん棒がメインね。まれに、冒険者から奪った武器を持ってることもあるからそこは注意しておいて」
「わかりました。魔法とかは使ってこないんですか?」
「うーんとね、突然変異か何かで魔法が使用できるゴブリンメイジっていうモンスターもいるらしいけど、私も遭遇したことないくらい希少種よ。まず、戦うことはないと思うから安心して」
ゴブリンだけでも無駄に種類がいるんだな。魔法を使うゴブリンか、そりゃゴブリン界ではでは相当なエリートなんだろう。ゴブリンキングやゴブリンロードもいつか戦ってみたいな。
「大体わかりました。この森のゴブリンは通常のゴブリンってことですよね? まずは、群れを頑張って見つけるところからですか」
「この森もFランクやEランク冒険者の狩場として人気の場所だからうじゃうじゃゴブリンが出てくるわけじゃないわ。まだ時間に余裕もあるからゆっくり探しましょう」
ゴブリンも冒険者に狩られて数を減らしているということか。モンスターも大変なんだな。狩りつくされていないってだけですごいことかもな。
ゴブリンを探して森を歩いているが、一向にゴブリンの姿は見当たらない。むしろ、冒険者には二度遭遇した。なんでも、ゴブリンを討伐して帰るところらしい。3時間くらい探し回ってようやく見つけたとぼやいていた。
「レイリヤ先輩、ゴブリンってそんなに見つからないモンスターなんですか?」
「もう少し進んでいけばいるにはいるんだけど、ちょっとモンスターのレベルが上がっちゃうのよ。だから、低ランクの冒険者は森の奥までは進まないでこうしてゴブリンを探してるってわけなんだけど、私が狩っていたころはここまでじゃなかったのよね」
やっぱりゴブリンは人間によって淘汰されてしまっているのか。進めばいるけど、モンスターのレベルが上がってしまうというジレンマに耐えつつ、根気よく探さないといけないってのはつらいもんだな。新人冒険者全員が通る道なんだろうが、正直めんどくさい。これも俺のせいなんじゃないかと思ってしまうな。ゴブリンを見つけないことにはないも話が進まないからな。邪魔としては最適だ。
「奥に行ってみますか? ゴブリンだけ倒してすぐに戻ってくれば大丈夫ですよ。それにレイリヤ先輩もいますから」
「そういう考えはよくないわ。自分の身の丈に合わないことをする冒険者は早死にするのよ。今回は私がついてるから問題ないけど、次以降も同じ考えで先に進んでしまうわ。まだこのあたりで粘りましょう」
ごもっともだ。俺の強さを知らないレイリヤは本当に心配して言ってくれてるんだろうな。一度、俺の実力の片鱗を見せておくのも手かもしれないな。無用な心配だったってことを教えたやらないと……でもそれにはまずゴブリンがいないとどうしようもない。出てきてくれよ早く。