この町を活動の拠点にする予定だから少しは覚えとかないとな
大通りを歩いていると様々なものが視界に入ってくる。
買い物客で賑わっている屋台や、装飾品のようなものを売っている露店なんかもある。もちろん、建物を構えて営業している店もたくさんある。これだけあれば、大抵のものはそろってそうだ。金さえあれば困ることはないんじゃないかな。
「なんにしてもまずは金を稼がないとな。神様からもらった力を悪用して稼ぐようなことはしちゃだめだ。真っ当な手段で金を稼がないと」
その気になればそこらへんにいる人たちは全員俺の財布のようなものだ。しかし、世界を救うことを目的としてる俺がそんなことをしてしまったら暴れまわっているという魔王と何一つ変わらない存在になってしまう。恩を仇で返すようなことはできない。大変だとしても頑張るんだ。
どこに何の店があるかまでは覚えられないが、ぼんやりと記憶してるだけでも次に来るとき便利だと思うので周囲を観察しながら歩みを進める。普段であれば、のほほんと歩いていることだろうが、現状頼れるのは自分だけだ。スマホという便利アイテムも当然もっていない。スマホをもっていないだけで不安が増してくる。俺がスマホ依存症だったことがわかったな。
まっすぐ進んでいると、冒険者協会と書かれた看板を掲げている建物を見つけた。
立派な建物で、外から見たところ二階建てくらいかな。さっきから観察していて気が付いたが、この世界ではどうやら木造建築が主流らしいな。どの建物も木造だ。
「違和感なく文字が読めてしまうってのは不思議な感覚だな。これも神様の力の恩恵だろうな。こんな細かいところまでありがとう」
これで文字が読めないっていう心配は消えた。おじさんと会話できた時点で会話ができないって言うのもないから後は文字が書けるかってところだな。まあ、実際書いてみないとこればっかりはわからないよな。
「よし、入ってみよう。なんだかワクワクしてきた」
元の世界では存在しないモンスターと戦う、冒険者という職業に俺はあふれる好奇心を隠せずにいた。
何の力も貰ってなくて転生していたらまず来ていない場所だ。一般人のままモンスターと戦うなんて恐怖が勝ってしまって無理だろう。これも神様に力をもらったからできた選択肢なんだよなぁ。神様もう一度ありがとうございます。
ドアは開放されており、入口から中へ入る。
入って数歩のところで中を見渡す。
俺の予想通り二階建てになっており、一階の手前は開けた空間になっている。その奥にカウンターがあり、受付のお姉さんたちが立っていて、冒険者たちが列を作って並んでいる。
「結構並んでるな。今何時かわからないから混む時間帯とかわからないのが困るな。一番混む時間帯では流石にないだろうけど……」
冒険者たちは鎧を来ている人やローブを羽織った魔法使いスタイルの人など、自分たちの戦闘スタイルに合わせた装備を身に着けている。どの人もパッと見ただけで冒険者だなって格好だ。それに比べて俺は……コンビニに行こうと思って家を出た恰好のままだ。Tシャツにパーカー、下はジャージだ。動きやすさ的には問題ないがあまりにも防御力の面で不安要素が強すぎる。てか、冒険者ギルドをこんな格好でうろついているのは俺だけだ。まずい、悪目立ちしてしまいそうだ。
「貴方、ここは冒険者協会よ。入る場所を間違えていない?」
俺が考え込んでいると、横から声をかけられた。
案の定、俺の恰好が不信に思ったのだろう。声のしたほうを見ると、部分的な鎧を着た金髪の女の子が立っていた。防御力を犠牲にする代わりに動きやすさを伸ばしたのだろうか。身に着けている鎧もあまり重そうって印象は受けない。スピード重視の近接戦闘スタイルなのかもしれないな。
「いや、冒険者になろうと思ってここに来たんです。まだ、わからないことばかりで装備とかも持ってなくて……」
「え? 新人なの? それならそうと言ってよ。私は、レイリヤ。この町ゲレイルでずっと冒険者をしてるの。大体のことはわかるからなんでも聞いて」
どうやら、新人ってことで納得してくれたようだ。新人たちはこんな格好で来ても普通なのだろうか。考える必要はないか。
「親切にありがとうございます。それじゃあ、冒険者になるためには何をしたらいいんですか? なにか試験とかはあったりしますか?」
「いいえ、冒険者は誰でも登録するだけで簡単になれるわ。一般的には最初は一番下のFランクから始まるのだけど、実力をしめすテストに合格できれば特例で最高Dランクからスタートすることもできるわ。普通の人はFランクからだからあそこの受付で登録すれば、冒険者カードが発光されて冒険者の仲間入りよ」
テストを受ければDランクからスタートできるのか。どうしようか、ここは神様の力もあるし、テストに合格してDランクからスタートするべきか? あくまでもお金を稼ぐのがメインの目的だからそこまでする必要はないか。情報だって冒険者をしてたら勝手に入ってきそうだし。
「ありがとうございます。俺はデンジロウって言います。また機会があったらいろいろ教えてください」
「頑張ってね……私今日は予定ないから一緒に行ってあげるわ。始めてきた冒険者協会で一人なんてきっと不安でしょうしね。実は、私も初めて来たときはいろんな人に助けてもらったから。私もしてみたかったの」
「いいんですか? お言葉に甘えてよろしくお願いします」
まさか案内までしてもらえるとは、この世界に来てからというものいい人たちにしか出会ってないな。順風満帆過ぎて怖いくらいだ。いつもみたいに足もとをすくわれないように気を引き締めて行動しよう。