いままでありがとうございました。
今俺は死ぬまでにはあじあうことのできなかった体験をしている。二人の女の子から両手に抱き着かれ、逃げないように確保されているのだ。
「いくらレイリヤお姉ちゃんの頼みでも聞けないね。私たちだって一緒にご飯食べたいもん」
「うん、私も」
レイリヤから放せと言われても二人は微塵も離す気はなさそうだ。俺からしてみればこの状況はラッキー以外の何ものでもないので長く続けば続くほどいいな。もっと言い争っててもいいんだぞ?
「私が先に約束してたのよ。そこに、無理やり入ってくるなんてマナーがないってないと思わないかしら? そんなことしてたら絶対にパーティーに入ることはないわ」
これは大人げない。パーティーに入るつもりなんて元からない癖に、こういう時だけ使ってくるのはいじわるというもんだ。さて、二人はどう出るのか? リーダーっぽいシオンがいなくてどう対応するんだ?
「ずるいよ!! それとこれとは話が別だよぉ、ねぇ、シリー」
「うん。ずるい」
駄々をこねて時間を稼ぐ作戦か? それともただ単にずるいと思ってるだけか?
どちらにせよ、このままじゃあレイリヤは時間を稼がれるだけだな。無視して帰るにも俺は二人につかまったままだしな。一応抵抗している風を出しておくか。ずっと、無抵抗だったらおかしいもんな。
「俺を捕まえたって意味ないですよ。放してください」
「ダメ!! シオンに逆らったら後で怒られるのは私たちなんだよ? デンジロウはここでおとなしくしてて!!」
「逃がさない」
これで抵抗する意思はしめせただろう。にしてもシオンに怒られるのが嫌ってどんだけ怖いんだよ。レイリヤは怒らせても大丈夫ってことだろう? あと、ちょっと逃げたいって意思を出したおかげて、二人の俺をつかむ力が少し増している。何とは言わないが役得だな。
「はぁ、もうわかったわよ。それじゃあ五人で行きましょう。デンジロウそれでもいいかしら?」
「え? 俺はレイリヤ先輩がいいっているなら大丈夫ですよ。俺には特に断る理由もないですから」
そんなにすぐ折れなくてもよくない? レイリヤがオッケーだしちゃったらこの状況が終わっちまうじゃんかぁ……。
これで天国のような時間も終了かと少し残念な気分になってしまう。もちろん顔に出しはしない。心の中だけで何とか押さえる。
しかし、一向に二人は俺を放そうとはしなかった。
「二人ともいつまで抱き着いてるの? 早くデンジロウから離れなさい。変に注目されちゃってるわよ」
レイリヤの言う通り、俺たちは非常に目立っている。周囲の視線が気にならないほうとはいえ、これはちょっと気になってしまう。それでもこの状況を何とかしようという気は一切起こらないがな。
「レイリヤお姉ちゃん、シオンは戻るまで確保してろって言ったんだよ。今放してもし逃げられたりしたら私たちはどうなると思う? シオンが戻るまでは放すわけにはいかないよ」
「私も怒られたくない」
「もう逃げたりしないわよ。私がそんな卑怯な真似をすると思う? 少しは私の言うことも聞きなさいよ」
シオンはこの二人を恐怖で従えているのだろうか? そう受け取られてもしょうがないんじゃないか? 少なくとも俺はもうそうとしか思えなくなりつつあるぞ。
レイリヤが心底呆れた表情で二人を見ている。俺のほうにも視線が向くが、少し睨まれるだけですんだ。これも俺の申し訳なさそうな表情をしているのが聞いてるはずだ。心の中では顔が緩みっぱなしだが、表情は申し訳なさでいっぱいというアンバランスな状態なのだ。
「戻ったわよ。二人ともちゃんと確保してて偉いわ。それで? レイリヤは諦めたの?」
やっとシオンが戻ってきた。
これで正真正銘俺のラッキータイムは終わりを告げてしまうのか……。
しかし、二人はシオンが戻ってくるのを確認してもすぐには俺から離れたりはしなかった。
そこまでしっかりしてないと怒られるのか?
「もう一緒にご飯行くことにしたわよ。毎回毎回、強引な手ばっかり使うんだから。少しは自重しなさいよ」
「あの頑固なレイリヤがそんなに簡単に折れちゃうなんてそんなにデンジロウとご飯に行く約束が大事だったの? いつもなら、全員おいて一人で帰っちゃうじゃない?」
「私から誘っておいてそんなことしないわよ。今日はご馳走してあげるって約束してたんだから私だけ帰るなんてありえないわ」
レイリヤ先輩の優しさに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
レイリヤ先輩はこんなにも俺に良くしてくれているのに、俺なんてこの状況をラッキーだとか思って楽しんでいました。以後気を付けます。
「二人とももういいわよ。ご苦労様、せっかくだし私たちも今日は豪勢に行きましょう。今夜はどれだけ食べても起こらないわ」
シオンからのもういいという指示が出て、二人が離れて行ってしまった。すごい名残惜しい気持ちになる。
「やったー!! シオン大好き!! 私はお肉が食べたーい!!」
「私もお肉食べたい。美味しいのがいい、最近安いお肉しか食べてないから」
ここにきてシリーがちょっと長くしゃべった気がする。これもお肉パワーか。でも、そんな高いところを奢ってもうのは……いやご馳走になろう。俺にとってもこの世界に来ての記念すべき始めての食事なんだからな。それに腹も減ってきたし。




