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★2 クラリス・メイウッドは、アリシア王女を許せない!

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 クラリス・メイウッドは、兄からの手紙を封筒に戻し、上着のポケットにしまった。

 そして、閲覧机に突っ伏し、「ハフーッ」と盛大な溜息をついた。

 昼下がりの図書館は人も少なく、彼女の規則違反をとがめる者はいなかった。


 手紙には、従僕のジョセフの大往生が、淡淡とつづられていたが、兄のダドリーは、心の拠り所である彼を失い、相当まいっているはずだった。


「まあ! こんなところで寝ていてはまずいですよ、クラリス!」


 耳に心地よいメゾソプラノで、クラリスの規則違反を指摘してきたのは、同じクラスで学ぶグレースだった。

 彼女は、右手を伸ばして、柱に貼られた、『館内での居眠りを禁ず』という張り紙を指さしながら微笑んだ。


 グレースは、クラリスよりも一つ年上だったが、機知に富んだ親しみやすい人物で、知り合いがほとんどいない留学生のクラリスにとっては、唯一無二の親友といえる存在だった。


 クラリスが、グレースと親しくなれたのは、兄のダドリーのおかげだ。


 * * *


 二年前、高等貴族学院の入学式の日、ダドリーは、御者が倒れて困っていたグレースを自分の馬車に誘い、自分はグレースの馬車を操り、倒れた御者を医者に運んでいった。


 クラリスたちは、もちろん入学式に間に合ったが、ダドリーはとうとう式の終わりまで姿を見せなかった。

 式を終え会場を出たクラリスは、ようやく汗をふきながら走ってくる兄と行き会った。

 

「ごめんよ、クラリス、式に間に合わなくて! でも、あの御者はもう安心だ。薬が効いて落ち着いたので、お屋敷へ送ってきたからね。それで、そのお屋敷というのが、ラングトン公爵様のお屋敷だったんだよ。つまり、あのご令嬢は――」

 

 そこで、突然、ダドリーは話を中断した。

 クラリスが振り向くと、二人の侍女とともに、グレースがこちらに歩いてくるところだった。

 ダドリーの姿を認めたグレースは、駆け寄ってくると嬉しそうに言った。


「まあ、メイウッド侯爵! いろいろとありがとうございました! 無事に入学式に参加することができました。侯爵のお心遣いに、心より感謝いたしますわ。申し遅れましたが、わたくしは、グレース・ラングトンと申します」


 そのあと、ダドリーとクラリスは、グレースの屋敷に招かれ手厚いもてなしを受けた。

 そして、ちょうど居合わせた公爵や公爵夫人からも感謝の意が伝えられ、留学中は、クラリスの後ろ盾となることも約束してくれた。

 ダドリーは、何度も夫妻に礼を述べ、安堵して帰国していった。


 * * *


「それは心配ですね。あなたのお兄様は、真面目でお優しい方ですから、ほかの使用人のことを気づかって、不自由を我慢したり、自分で何とかしようと考えたりするかもしれませんね」


 図書館からティールームに移動し、兄から届いた手紙のことを話すと、グレースはすぐに相談に乗ってくれた。


「そうなんです。その結果、心労が溜まって倒れてしまうのではないかと――」

「クラリス、あなたの不安をかき立てることになるかもしれないのですけれど、さらに、あなたのお兄様に関わる困った話が、わたしのところに聞こえてきています――」

「困った話って……、ど、どんなお話ですか?」


 グレースは、ちらりと周囲に目を配った後、クラリスの耳元で囁くように言った。


「我が国の社交界で、さんざん浮き名を流し、国王陛下から謹慎を申しつけられた、コリガン公爵家の次男フィリップが、遊学と称してグレネル王国へ行ったようなのです。

やつは、あちらでさまざまなサロンに出入りし、得意の詩や歌を披露して、ご婦人方に取り入り、とうとう第四王女のアリシア様とお近づきになったようです」

「ア、ア、ア、アリシア様と~っ?!」


 グレースは、急いでクラリスの口を、右手に持ったハンカチで押さえた。

 クラリスは、目を白黒させていたが、グレースはそのまま話を続けた。


「アリシア様は、お兄様の婚約者でしたわよね? フィリップのこれまでのやり口から考えますと、おそらくアリシア様に『真実の愛』とやらを吹き込んで、婚約破棄に追い込むはずですわ。そして、自分が後釜に納まり、グレネル王家の姻戚となることを狙っているのでしょう。バルニエ王国で居場所をなくしたやつは、グレネル王国で、権力を手に入れようと企んでいるのに違いありません!」

「そ、そんなことが、まさか――」

「嘘ではありませんよ。やつに罠を仕掛け、証拠を手に入れ、国王陛下にお知らせしたのは、わたくしなのです。その結果、やつは謹慎処分となりました。アリシア王女は、その……、人を見る目をお持ちの方でしょうか? どんな誘惑にも屈せず、あなたのお兄様を一途に思い続けるような方でしょうか?」


 クラリスは、ハンカチを取りのけ、すぐさま答えた。


「いいえ! わがままで甘言に弱く、流行を追って無駄遣いをし、婚約者である兄のことを、真面目すぎて面白くないと評して、ないがしろにするような方ですわ!」


 クラリスが目をやると、グレースは口元を歪め、何だか悲しそうな顔をしていた。


「わかりました。これは、わたくしの出番のようです。国王陛下にご相談し、さっそくグレネル王国に入る算段をいたしましょう。そして、フィリップの件とあなたのお兄様の件を、同時に解決してまいります。つきましては、クラリス、あなたのお力も少しお借りしなくてはなりませんわ」

「そ、それは、かまいませんが……。グレース、あ、あなたは、いったい、どういうお方なのですか?」


 グレースは、形の良い唇の端をきゅっと上げて笑うと、自信たっぷりに言った。


「わたくしの本当の身分は、公爵令嬢ではありません。グレース・ラングトンというのも本名ではありません。ラングトン公爵家は、母の実家で、公爵夫妻は、実は叔父と叔母です。わたくしは、……そうですね、正義に仕える者、『正義の従僕』ということになるかと思います」


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

この後、本日中に最終話を投稿し、完結する予定です。

最終話までお付き合いいただければ嬉しいです! では、後ほど!

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