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★1 クラリス・メイウッドは、隣国で丸眼鏡女子と知り合う!

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「おはようございます、クラリス様! いよいよ本日は、入学式でございますね。お支度のお手伝いをさせていただきますわ!」


 ノックへの応えを確かめて入ってきたのは、この女子寮のメイドのエイダだった。

 その言葉を聞いて、すでに身支度を整え、スツールに腰掛けていたクラリスは、緊張すると同時に決意を新たにした。


(今日から、高等貴族学院での学生生活が始まるんだわ! これまでわたくしの勉学を支え、わがままを聞いて留学の準備をしてくださったお兄様のためにも、頑張るのよ、クラリス!)


 寮には、主に、留学生が暮らしている。中には、自前のメイドを連れてきて、何から何まで世話をしてもらっている学生もいる。

 しかし、クラリスは、兄の負担を減らすため、できる限り自分のことは自分でやり、必要があれば寮のメイドの手を借りることを選んだ。


 今朝も、自分で結ったシニョンを、エイダに手直ししてもらうぐらいで、入学式の準備は一人で整えた。

 外套を羽織り、学生寮のロビーで待っていると、兄のダドリーが、領地の従僕であるアランとともに現われた。彼らは、近くのホテルに泊まっている。


「おはよう、クラリス! 待たせてしまったね。すぐに出発しよう!」

「おはようございます、お兄様! 急がなくても大丈夫です。時間はたっぷりありますわ!」


 二人の乗車を手伝いながら、御者も務めるアランがこぼした。


「まったく、ダドリー様はお人が良すぎますよ。辻馬車にはねられそうになって転んだ新聞売りのじいさんを、馬車で家まで送ってやるなんて!」

「まあ、そんなことが?」


 身の回りの世話をしている者が老人ばかりのせいか、ダドリーは、人一倍老人を気づかってしまうところがある。

 今回も、屋敷の従僕のジョセフの体調がすぐれないので、わざわざ領地の従僕であるアランを呼び寄せて連れてきたぐらいだ。


「ご老人が、もともと腰に持病があって、とても歩けないと言うのでね」

「嘘だったかもしれませんよ! そう言って同情をひいて貴族の馬車に乗り込み、何かを盗もうという魂胆のやつもいるようですから!」

「別に何も盗まれてはいないさ」

「でも、残りの新聞を全部買い取ってやりましたよね!」


 クラリスが馬車に乗り込むと、確かに新聞の大きな束が、座席の隅に置かれているのが見えた。

 クラリスは、インクのにおいが漂う車内に落ち着くと、兄を見て微笑んだ。


 ダドリーは、自分の容姿や才能は人並みだと考えているようだが、そんなことはないとクラリスは思っている。


 領地の経営は、父のやり方を引き継ぎながら、紳士クラブなどで情報を集め、堅実な投資先を見つけて上手に資金を運用している。

 兄の代になって約三年。メイウッド家の資産は、間違いなく増え続けている。


 彼の黒髪や灰色の瞳は、穏やかな性格とあいまって、相手に安心感や信頼感を与えるらしく、子どもの頃から彼の周りには人がよく集まってきた。

 彼との結婚を夢見ていた幼なじみの貴族令嬢は、たくさんいたはずだった。


 八年前、十三歳のときにダドリーは、第四王女のアリシアと婚約させられた。

 兄が逆らわないのをいいことに、たいして美人でもなければ、性格がいいわけでもないアリシア王女を、将来有望かつ由緒あるメイウッド家に押しつけてきた――と、幼い頃から利発だったクラリスは思った。


(お父様もお父様よ! メイウッド家の発展のためだとか言って、あのわがまま王女を引き受けたりして! お母様とわたくしは絶対反対だったのに、何の策も労さず王家の言いなりになってしまったのだわ!)


 今でも、クラリスは、あの婚約に納得してはいなかった。

 真面目なダドリーは、婚約者としての務めを果たそうと、つねに王女を気づかい振り回されている。


 さすがに、王女からのおねだりはないようだが、約束はすぐにたがえるし、手紙の返事は寄越さないし、贈り物もダドリーからばかり――と、フレッドやアリスが愚痴をこぼしていた。


 あの気まぐれな王女が、いつメイウッド家へ輿入れしてくるかわからないので、クラリスは留学を決めたのだ。

 バルニエ王国の高等貴族学院で学べば、国に戻ったとき、女性であっても官吏への道が開かれる。家を出て、自立することもできる。

 クラリスは、兄の犠牲に心を痛めながら、大きな野心を胸に、バルニエ王国にやって来たのだった。


 突然、馬車が止まった。

 驚くクラリスを落ち着かせ、ダドリーは馬車を降りていった。


「道を邪魔して申し訳ありません。御者が急に苦しみ出しまして――」

「どちらへ向かっておられたのですか?」

「高等貴族学院の入学式でございます」

「なんという巡り合わせ! わたしも今、妹の入学式に参列するため、そちらへ向かうところです。どうぞ、うちの馬車にお乗りください。えっ? 三人? ……かまいませんよ! ささ、どうぞ、ご遠慮なく! わたしは、ダドリー・メイウッドと申します。お隣のグレネル王国から参りました。妹は、クラリスと申します。どうぞ、仲良くしてやってください!」


 馬車の扉が開き、三人の女性が乗り込んできた。

 二人は、服装から見て侍女かメイドと思われた。

 そして、二人にかしずかれながら乗ってきたのは、薄く色のついた分厚い丸眼鏡をかけた、クラリスと同じような服装をしたご令嬢だった。


 女性四人で、馬車は満員となった。

 クラリスが外を見ると、ダドリーがにこやかに手を振り、馬車を見送っていた。


「うちの馬車を操り、倒れた御者を医者まで運び、その後、入学式会場へいらっしゃるそうです。本当に申し訳ありません……」


 二人の侍女のうち、年配の方の女性が、すまなそうな顔でクラリスに告げた。


「入学式が終わったら、再びうちの馬車の御者となって、屋敷までお付き合いくださるとのことでした。あの、お嬢様……、その、メイウッド様というのはいったい……」


 もう一人の侍女が、さらに申し訳なさそうな顔で、クラリスに問いかけてきた。

 クラリスが答えようとすると、向かいに腰かけていた丸眼鏡のご令嬢が、先に口を開いた。


「グレネル王国で、ご息女を我が国の高等貴族学院へ留学させようなどと考える、確かな見識をお持ちのメイウッド家といえば、メイウッド侯爵家にきまっているでしょう! そうですよね、クラリス・メイウッド様?」

「は、はい、確かに。兄こそが、ダドリー・メイウッド侯爵ですわ」


 ご令嬢は、うんうんと頷きながら、形の良い唇の端をきゅっと上げて、蠱惑的な笑みを見せた。

 クラリスは、なぜかはわからないが、このご令嬢とはとても馬が合いそうな気がした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

この後、深夜までに残りの二話を投稿し、完結する予定です。

最終話までお付き合いいただければ嬉しいです! では、後ほど!

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