008.いつもちょうど良い所にあるのだ。お前のおっぱい
結局全員があっさり白旗を上げた為、7人全てを吸血鬼化し、余の僕とする事に成功した。
彼らは7人の盗賊と2人の暗殺者という構成で、それぞれ別々に村長に雇われているのだそうだ。
リンダの家族を誘拐した野盗もこいつらであった。
「リンダの元へ案内せよ」
「……」
何やら動揺が走っているのである。
こやつらは余に逆らう事は出来ぬ。これは魂への束縛だからだ。
「どうした。何かあるのか?」
「は、はい。地下牢の近くには魔物がいます」
やはりである。余がずっと察知していたのはその気配だった様だ。
「構わぬ。牢の鍵を持って案内せよ」
「は、はい」
「心配するな。何かあってもお前達は助けてやる。勿論リンダの命が最優先であるが」
「よろしくお願いします……」
ゾロゾロと大勢引き連れて暗闇を歩く。
すぐに松明の炎が壁にボウッと反射するのが見えて来た。僕共の間に目に見えて緊張と怯えが走り出すのがわかる。
つまりは彼らが恐れる魔物とやらが近いという事である。
「お前達は今、闇の眷属ヴァンパイアの王と共にいるのだ。怯えるでない」
「は……ハッ!」
幾分かは平静を取り戻した様である。
元の世界では感じたことの無い闇の気配は相変わらず、する。これが魔物というやつであろう。
だがそれとは別の、多くの息遣いがするのも感じ取れた。
これは人間であるな。
10人程はいる様である。
先程潜んでいたこいつらの様な敵意は無い。むしろ不安や怯えで一杯である。
角を曲がると少し広い通路、その両脇には松明が焚かれ、2つの牢屋があるのがすぐに分かる。
ここが地下牢の様である。
「コ、コンスタンティン!」
「リンダ」
先程のこやつらとの戦いの物音を聞いて鉄格子に齧り付いていたリンダがいち早く余を見つける。
リンダの目の前まで歩き、優しく声を掛ける。
「安心せよ。余が救い出してやる」
「コンスタンティン! 有難う。私の家族とも会えたよ」
彼女の後ろにいる4人がそうらしい。
彼女を拾い、育てたという両親と血の繋がっていない姉夫婦らしき者達である。
「そうか。それは良かったな。後は余に任せるがよい」
「うん!」
「あの……」
恐らくはリンダの父親であろう、年長者とみえる男が話しかけてきた。
「なんであるか」
「き、気をつけて下さい。ここには気味の悪い魔物がいます」
「うむ。その様であるな。ところでお前達はどこからここに運ばれて来たのだ?」
男は右手で通路の先を示し、
「はい。今、貴方方が来た方向とは逆の、こちらに階段があり、そこから」
「そうか。それは良かった。壁登りをせずに済みそうだ」
野盗共に命じ、牢を開けさせた。
「コンスタンティン!」
リンダが飛び出して来た所を抱き止める。
「良かった。服、あったんだね」
「うむ。全く趣味は合わぬが贅沢も言っていられないのでな」
ギ……ギギ……
今し方通って来た方の壁がゆっくりと開く音がした。
「お出ましであるな」
その方を見やるとかつてトランシルヴァニアで一時共に過ごした事のある、ドクターフランケンシュタインが作ったあの怪物に似た、大型の魔物が目に入った。
「ウ……グォルル……」
全身に痛々しく包帯を巻き、擦る様に足を運ぶ。力は有りそうだがノロ過ぎて眠っちまいそうである。
「マ、マミー!」
腕の中のリンダがブルッと震える。
「マミー?」
「太古の魔法で蘇ったと言われる死霊系の魔物なの。何をやってもあれを止める事は出来ないし、倒す事も出来ない」
「ずっと思っていたが、お前……魔物に詳しいな」
「フフ。これでも勉強したんだ……ってそんな事言ってる場合じゃない!」
「余に任せよ」
リンダを離し、後ろ手で再び牢の方へと追いやり、
「もう一度入っておれ。その中の方が安全であろう」
「あぁぁぁんもう!」
「ん?」
リンダの泣き声がするので何かと思えば、しまった。またやってしまった。
「すまぬ。またおっぱいを揉んでしまった」
「だからやめてよその表現!」
「いつもちょうど良い所にあるのだ。お前のおっぱい……」
ドンッ!
凄まじい衝撃と共に体が反対側の鉄格子に打ち付けられた。
顔がめり込み、頭蓋骨に無数のヒビが入った事がわかる。
「コンスタンティンッ!」
「アウッ……ゴホッ」
口から血を吐いてしまったのである。勿体無い! ヴァンパイアにとって血液は非常に大事なものだというのにである。
こちらの牢にも数人の村人らしき者達がいた。余がやられたのを見てヒィッと悲鳴を上げて後退る。
振り向くとマミーがいたのである。いつの間にここまで近付いたのか。リンダの可愛いおっぱいに気を取られていたせいで気付かなかった。
ハッ!
リンダが危ない!
「お前達、リンダを助けて牢の中へ入れ!」
「ハ、ハイッ!」
ワラワラとリンダを匿いながら牢の中へと逃げる野盗と暗殺者共を見てまずは一安心である。
メキメキと頭の中で音が鳴る。頭蓋骨が修復されているのだ。
とはいえ痛いものは痛い。
「同じ不死者の誼で手心を加えてやろうかと思ったが余に手を上げた以上、相応の罰を受けて貰おうか」
指を鳴らしながら、魔眼にオーラを纏わせて魔物に向き直った。