007.フハハハ。これで貴様らは吸血鬼となった。
若干奇異の目で見られている気もするが余は気にしない。
十分程歩いた所でもう1人の男が着る物を持って来た。
マントがなく、代わりにフードの無い黒のローブを持ってきたと言う。
まるで司祭か何かの様である。実に締まらない。黒であるだけマシといえばマシか。
中はこれまたセンスのカケラも無い、ベージュのセーター、ブラウンのズボン、黒の靴、下着。
まあこの際、文句は言っていられない。
取り敢えずそれを着ると再び3人に連れられる形で雑草だらけの道を進む。
やがて一軒の、この様な寂れた村にはそぐわない館が視界に入ってきたのである。
「あれです」
ふむ?
ここの村長は人外であるか?
そんな気配がヒシヒシと伝わる。
それとは別に何者かに見張られている気もするが……こちらは無視して良い程の小物の魔物の様。スルーである。
「君がコンスタンティン、かな?」
「いかにも。余がコンスタンティン・ドラグーンである」
違う。
あれはただの人間である。
だが魔物の気配は先程よりも強く感じるのである。どこかに潜んでいるのであろう。
意外にも村長は笑顔を見せた。
「よくぞリンダを連れ戻してくれた。あの子が君に何を言ったのか知らないが、あの子は少し勘違いをしているだけだ」
嘘である。
腹黒さが丸見えである。が、魔物も潜んでいる様だし、一旦彼女の元へと案内させるのが吉である。
「そうか。ではリンダの元へ案内せよ」
「おお、問題無いとも。では我が家へ」
嫌な笑顔で入れと手で示し、中へと消えていく。
「お前達はここまででよい。ご苦労であった」
「はははい」
3人にそう言い残し、先程村長が入って行った扉から入って行く。
一歩足を踏み入れた。嫌な気配が辺りを覆っているのがすぐにわかる。
扉の中は広いロビーとなっていて中央奥には扉が、両脇には2階へと続く階段がある。
扉の手前に村長が立っていた。
「リンダはどこであるか?」
「この中だ。君を待っている」
何を考えているか知らぬが、余を嵌めようとしても無駄だという事がわからぬのであろうな。
「どうぞ?」
ニタリと嫌な笑い方をして扉を開け、中を手で指す。
中に魔物でもいるのであろうか? いずれにしても余には通じない。
優雅に歩を進め、扉へと近付く。
「ではリンダに会わせてもら……」
ガシャン!
突然凄まじい音と共に上下の感覚が無くなった。
ま、まさかまた違う世界へ?
真っ暗な空間を落ちて行く感覚は時間にして2、3秒程だったかもしれぬ。
ドン! 地面である。無様にもバランスを崩し!背中から落ちてしまった。
上を見ると落ちてきた所がポッカリと四角く、天窓が開く様に開いていた。
つまりまた異世界に飛ばされた訳では無い様である。取り敢えずはよかった。
ひょっこりとそこから顔を覗かせたのは村長である。
「いやはや……こんな手に引っかかるとは。ヴァンパイアも大した事ないな」
勝ち誇った様に言うと、再びガシャンと扉が閉まる音がして、辺りは完全に真っ暗になった。
クソッ。嵌められてしまったのである!
―
ううむ。少し油断が過ぎたか?
いや、向こうが狡猾だったと考えよう。元の世界に余をこんな目に遭わせようなどと目論む奴などいなかったし。
いずれにしてもこの上に奴がいるのだからどこからか登れば良いだけの事である。
暗闇も余には何の足枷にもならぬ。闇の眷属ヴァンパイアの目には昼間の様に見えるし、何より暗い方が慣れているのである。
「さて……リンダを探すとするか。3人の男の1人が地下牢に、と言っていたであるな」
ここは地下牢という感じはしない。
通路の様である。
微かに奥から風が吹き込んでいるのを感じ、そちらに向かう事にした。
少し歩くと一気に空気が変わる。
いるである。
人間の気配、それもかなり多い。
ふむ。この暗闇で、しかもそれ程殺気を漏らして余に向かってくる気か?
前方10メートル程の辺りに7、8名程が潜んでいる。物音はしないが気がダダ漏れである。
フン。そうそう何度も余を出し抜けると思ったら大間違いである。
突然!
両脇の壁がスッと開いたかと思うと中から2人の男が素早い身のこなしで襲い掛かってきた!
こいつらは完全に気配を殺していた。
挟み撃ち、しかも同時に短剣が確実に余の首を指す軌道で繰り出されている。
どうやら出し抜かれた様である。
ブスッブスッ!
「ウアッ」
呆気なく2本の短剣を首筋に受けてしまった。しかもこの異物反応……御丁寧に毒まで塗られている様である。
「なんと呆気ない」
「絶対に侮るな、仕留め損ねるなと言っておったからどんな化け物が来るのかと思えば」
「ほう。それは誰に言われたのであるか。あの村長か?」
「うわ!」
「ヒッ!」
勝ち誇っていた2人は余が平気である事に気付くと短剣を突き刺したまま、腰を抜かして尻餅をつく。
「なかなかやるなお前達。生業は殺し屋か? だが余には通じぬし、毒も効かぬ」
「な、な……」
「化け物!」
「化け物ではない。ヴァンパイアである」
「ヒッ……」
金縛りにあった様に怯える2人の首筋に噛み付き吸血、同時に吸血鬼化する余の体液を送り込んだ。
「あ……あ……」
2人は放心した様にへたり込む。
「フハハハ。これで貴様らは吸血鬼となった。余の僕であり、逆らう事は出来ぬ」
「ヒ……」
「本来なら二度と太陽の下には出られぬが、この世界ではどうかな? 出れたらラッキーと思うが良い」
「ははは、はい」
再び前方に向き直る。
次はさっきからずっと殺気を放っている者共を始末しようか。
恐らく今の2人が確実に余を暗殺出来る様、わざと殺気を出していたのであろう。この世界の住人もなかなか考えるものである。
元いた世界ではヴァン・ヘルシング以外に向かってくる者も久しくおらず、少しく鈍っているらしい。
この世界では気を緩める事は出来ぬ様だ。
「出てくるがよい、そこで隠れている者共」
すると奥から短剣を持ったならず者が7人、ぞろぞろと姿を現した。先程までの余を舐めている様な感じはしない。むしろ怯えているのがよく分かる。
「貴様らに選択肢をやろう。死か? 恭順か?」
声を掛けると明らかに狼狽の空気が広がった。
目の前で2人の殺し屋が吸血鬼になったのだから怖いであろうな。
そんな生半可な気持ちでヴァンパイアに刃物を向けるな! である。