006.貴様ら如きでは余に敵対する事は出来ぬ
1時間ほど歩いたのである。
「あそこがランドロックの村」
リンダの白い指が木々の隙間を指す。
木々はまばらにはあるが、民家が散在している。かなり昔の欧州の街並みによく似ているであるな。
「コンスタンティンはここで待ってて」
「どうするつもりであるか?」
「友達がいるからそこの家の人にあなたの服を借りてくる」
成る程。そういえば殆ど裸であった。
「それは助かるがお前もそこそこ、いやらしい格好をしているぞ?」
「……! う、ほんとだ、どうしよう。てか、いやらしいとか言わないで」
今更ながら胸を隠し、赤い顔をする。何とも可愛い娘だ。
仕方無い。文字通り一肌脱ぐとしようか。
余はいそいそとリンダに借りた上着を股間から外し、彼女の鼻先へ突きつけた。
「余は大丈夫だからこれを身に付けて行くがよい」
「着れる訳ないでしょうがそんなもん!」
真っ赤な顔で怒る美少女も良いものであるな。頭を撫でたくなるのである。
「余の事は気にせんでよい」
「してないよ!」
「優しい女だお前は。気にせんでよい。ほれほれ」
目の前に突き付けて返そうとするのだが、何故か「ううう」と唸っている。
「わ、わかったから! 目の前に持って来ないでってば!」
「何故であるか? 着やすいであろう? ほれほれ」
「もう!」
余の手からふんだくる様に奪い取ると暫くそれを苦々しげに見つめ、やがて目を瞑って「もう!」ともう一度言い、袖を通した。
「ううう。もうお嫁に行けない……」
「心配するな。余の妻になるとよいぞ」
「は、はあ!? それ本気で言ってんの?」
「無論本気である」
リンダは暫くジッと余の顔を睨む様にして見つめた後、
「か、考えとく」
照れながらそんな事を言った。
余が今まで抱いたヴァンパイアにはいなかったタイプである。
正直、とても可愛いのである。
―
それから余は待った。
勿論フルチ◯である。
1時間、2時間。
しまった。どれくらいかかるのかを聞いておくべきであった。
万が一、3日ほどかかるのであれば流石に余もここでジッとしている訳にはいかない。飯を探さなければならぬ。
「どうしたものかな」
そう呟いた時、人間の男が3人こちらに向かってやって来た。
どうしたものか。このままでは見つかる。
あの感じは確実にこの森に入ってくる。何故なら彼らと余を隔てるものは木々しかない。
つまり彼らの目的はこの森の中であるのは明白である。
まあ良い。
なる様になるであろう。
すぐに彼らは手を頭の後ろにやり、木の根に座っている余をみつけた。
「うわっ!」
「変態だ!」
「こ、こんな奴が?」
王に対して『変態』とは失礼しちゃうである。
だがもう少し相手の出方を見るのである。
「お、おい!」
「余であるか?」
「お前しかいないだろ!」
「お、お前がリンダと一緒にいたという奴か?」
ふむ。どうやらリンダは無事、村に戻れた様である。だがそこから先、今も無事かどうかはまだわからぬ。
「いかにもそうである」
「偉そうな喋り方だなおい……」
「お、おい待て……」
3人の内の1人が仲間の袖を引く。
「なんだよ」
「こいつ……ヴァンパイアだ」
「なに? う……」
余の真紅の瞳に気付いた様である。
「俺達だけじゃ無理だ、応援を頼もう」
「ああ、一度引き返すか」
「待つのである」
魔力を込め、命令する様に言うと彼らの背筋が伸びた。
「あ、う……」
「う、動けない……」
余はゆっくりと立ち上がり、彼らの前で威圧する様に胸を張り、腰に手をやった。
「ううう……」
「その判断は正しい。貴様ら如きでは余に敵対する事は出来ぬ。だが少し遅かったな」
「あうあ……おた、お助けを……」
「話の内容による。今から聞く事に正直に答えよ。余の魔眼は嘘を見抜く」
「ははは、はい」
ギロリと牙を見せつけ、否応を言わせない。
「リンダはどうなった?」
「リンダは村長が捕まえました」
「なに? それでどうなった?」
「村長の家の地下牢に閉じ込めてあるかと」
一瞬しまったと思ったがそれなら命や貞操は無事であろう。だが悠長にはしておれぬ。
「その村長とやらの所へ案内せよ」
「はははい」
「それとお前」
「はい!」
「マントと着る物を持って参れ。人間に変態とか言われちゃうと殺したくなるのでな」
今度は魔眼をキラリと光らせて命じる。ただの命令ではない。その者の魂に対する命令である。背く事は出来ぬ。
「は、ぁい!」
間の抜けた返事である。
「黒のマントであるぞ? わかったら行けっ!」
「ひゃい!」
1人の男が猛ダッシュで村へと走って行く。余は2人に向き直り、
「さて。お前達は余を捕まえたフリをしてさっさと案内せよ」
「はっ!」
「はい!」
そうして余は優雅に村へと足を踏み入れたのである。