005.すまぬ。おっぱいを握っておった
人差し指でちょいちょいと招くポーズを取るとホブ――!と雄叫びを上げながら突進してきた。
無論そんなものに当たる余ではない。
スッと避け、すれ違い様に脇腹の辺りを軽く裂いた。
ド――ン! と激突音が鳴り、余の後ろにあった木にぶつかる。
「ゴゴゴ……ブ――!」
いいい、って――! てなもんであるか?
全く言語として成り立っていない。
そんな事はどうでもよいがドラクリアは機嫌良くボブゴブリンの血を吸っている様だ。
剣身に鈍く赤いオーラを纏い出した。
「うむ。異世界でも問題なさそうである」
「ううう、うわわわわ」
リンダの声である。
しまった。ボブゴブリンの激突でバランスを崩したのであるな。
見上げた時には既にリンダはボブゴブリンの頭上に落ち、そのまま地面に落下していたのである。
これはまずい。
「いったたた……」
「ホブゥゥ」
怒りの表情で眼前のリンダを見下ろしている。
「あわわ……」
「ゴブッ!」
巨大な棍棒がリンダ目掛けて唸りを上げて振り下ろされた!
「……!」
頭を両腕で押さえて目を瞑るリンダだったがそんな事をしたら当たっちゃうのである。
ブゥゥンと風切音を上げ、続いて地面に激突する音が響き渡った。
「ゴブ?」
あれ? ってなもんであるか?
リンダの頭をかち割ったつもりだったのであろうが余が目の前でそんな事を許す筈がないのである。
「あ……」
蹲る彼女を後ろから片手で拾い上げ、瞬時にそこから離れたのである。
「あ、ありがと。コンスタンティン」
「うむ。お安い御用である」
「それで……その、離してくれると嬉しい、んだけど」
「ん?」
余を見上げる彼女の顔を見ると真っ赤である。照れておるのか?
あ……
「すまぬ。おっぱいを握っておったか」
「はっきり言わないでよ!」
確かに脇腹にしては少し柔らかかったが、女というのはどこを触っても柔らかく良いものである。下着しか付けていない割にさして凹凸もなく、違和感がなくて全く気付かなかったのである。
「少し柔らかいとは思っていたが、おっぱいとは思わなかった。悪かった」
「何気に無茶苦茶傷付くんですけど」
怒る彼女をゆっくりと下ろし、余の後ろへとやる。
胸が小さいのを気に病んでいるのか? だとすれば貴族としてレディへのケアはしなくてはならない。
「気にするな。そのうち生えてくる」
「雑草みたいに言わないでよ!」
「ホブ――!」
事態を把握したボブゴブリンがようやく余に向かって再び突進を浴びせて来た。
今度は避ける訳には行かぬ。後ろには護るべきか弱い少女がいる。
「ひっ」
「安心せよリンダ。あんなもの余の敵ではない」
巨躯頼みに一気に目と鼻の先まで押し寄せたホブゴブリンの顔に向かって跳び上がる!
「ノーブル・ファンタジー!」
華麗にそう叫ぶと呆気に取られる顔の鼻っ柱、殴られると最も痛い所に余の必殺のパンチを炸裂させた。
「ゴブッ!」
そのカウンターの一撃は魔物の顔をひしゃげさせ、来た勢いそのままに後方へ吹き飛んでいった。
「す、凄い……名前がついてるのが微妙だけど……」
「む。そうか? 余は気に入っているのだが」
ドォンと凄まじい音と共に真正面の大木に激突し、顔をめり込ませた。
周りで狼狽え、騒ぎ立てる小さなゴブリン達に、
「貴様らでは余の相手にはならぬ。命までは取らぬ故、大人しく帰るがよい」
そう宣告すると彼らは顔を見合わせ、親玉のボブゴブリンを木から助け出し、余に頭を下げながら逃げ帰って行った。
まずはこれで一安心である。
「さて、行こうか」
「もう私の許可なく触らないでよ?」
「おっぱいか?」
「お願いだからその単語やめて」
年頃の女は難しいのである。
余の妻達はむしろ触れ触れと言わんばかりに「これは何というのかしら? はっきり口にして言ってみなさい? 好きなんでしょう?」と突き出してきたものであるが……
だがこうやって恥ずかしがる女もいいもんであるな。
フハハハハ。