001.ここはどこであるか?
19世紀末、トランシルヴァニア。
余はヴァンパイアの王、コンスタンティン・ドラグーン。そしてここは高貴なる余の居城である。
そこに土足で踏み込んで来た憎っくき赤巻き髪の女、その名をヴァン・ヘルシングという。
欧州の対吸血鬼チーム、特攻隊長の女である。もう20年近く余の一族と常に第一線で戦い、既に年齢は40程になる筈だが余の妻達に劣らず、いい女だ。
だが余はこいつを許さない。
この女によって地上最強のヴァンパイア一族は、余を除いて滅ぼされたのだ。
家族もだ。妻3人、子供14人は既にいない。皆、灰となってしまった。
「さあ決着をつけるぞ。コンスタンティン」
生意気に決め台詞的な言葉を吐き、余に拳銃を向ける。
あの中には人外をも滅ぼすという銀の弾丸が仕込まれている筈だ。だがそんな事でビビる余ではない。
「お前が死んで終わりであるな」
「戯けたことを」
言うや否や1発ぶっ放してきた。
が、その前にトリガーを引く腕の緊張を余は見逃さぬ。
ササッと最小限の動きで華麗に避けると素早く奴に近付く。
「化け物め!」
「化け物ではない。高貴なるヴァンパイアである!」
2発、3発。
それらを躱しつつ愛剣を抜き放つ。
吸血剣ドラクリアである。
余と同じく人の生き血を吸い、より強くなる優れものだ。
暫く人を斬っていないせいで血を欲している。解き放たれたドラクリアは人外の余の膂力によって唸りを上げ、ヘルシングの首筋を薙ぎ払った!
そこで相討ちを狙っていたのか、彼奴は余の額に銃口を当てた。
食えぬ奴である。
数瞬後、ヘルシングは間違いなく死ぬであろうが、これは流石の余も避ける事叶わぬ。そしてこの弾丸が当たれば復活は難しい。
「終わりだ、コンスタンティン!」
「貴様も道連れである!」
どれだけ早口で喋ったのか分からないが、一瞬でそんなやり取りをした。きっとさる生理学者が最近見つけたアドレナリンというやつが、お互い出まくっているのであろうな。
何故かそんな事を考えつつ、ドラクリアを振り抜いた、筈であった。
一瞬、体が浮く感覚。
ついで上下が分からぬほどの眩暈が襲う。
余は凡人が言うような「うわっ」とか「な、なんだ!?」などの無様な台詞は吐かない。
「何事であるか?」
冷静にそう言った後、意識を失った。
◆◇◆◇
目が覚めた。
見慣れぬ光景である。
「ここは……どこであるか?」
野鳥の囀り、風に靡く葉擦れの音。
何より辺り一面に広がる木々。
もしやここは……森か?
だが何かおかしい。
「この眩しさは……」
木漏れ日というものを生まれて初めて経験した。
待て待て、ここは外、時は……朝! もしくは昼!
「ししし死んじゃう、ではないか!」
普段滅多にあたふたしない余であるが、流石にこれにはゾッとした。
だが、死なない。
暫くジッと怯えて固まっていたが、特に何も起こらない。
恐る恐る両手を見るが灰になる気配は一向に無い。
「あれ?」
一体、何が起こったのであろうか。
彼奴……憎っくきヘルシングはどこに?
暫くキョロキョロと周りを見渡しながら考えたが、
「ま、よいか」
傍に落ちていたベルトと愛剣を拾い、腰に巻いて立ち上がった。
何故か余の高貴なタキシードやシャツや肌着や靴が無くなっているがそれはさして問題ではない。
どうやら遂に太陽を克服した様である。
これで余に弱点は無くなった。
「フフッ……フハハハハハハ! 余は完璧である!」
更に理由はわからないが体中に魔力が漲っている。
今こそヘルシングの奴を粉々にしてくれよう。
グウゥゥゥ……
腹が減った余は食べ物とヴァン・ヘルシングを探して素っ裸で森の奥へと進む事にした。