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「よしっ!」
準備万端のバックを見て笑顔になる。葉月さんが旅行でいる物を書いた紙をくれたのでそれを参考にまとめた。これがなかったら大荷物になるところだ。
「終わったー?」
「あ、葉月さん」
ドアを開けていたから、ひょこっと顔を出している葉月さんが可愛い。
「パンパンだね。お土産入るかな?」
「エコバッグ持ってるから大丈夫ですよ。葉月さんは準備できました?」
「んー」
そう返事して持ってきたのはスカスカのリュックサックだった。
「え?これ中入ってます?」
「入ってるよ、着替えとか諸々。ないものは最悪買うから大丈夫」
「もったいないです」
「まあ次から忘れなくなるよ、きっと」
絶対忘れてまた買っているタイプだ。ジト目で見ると葉月さんは苦笑している。
「まあまあ。明日楽しみだね」
「はい!」
「早く寝るんだよ」
「葉月さんは私の保護者ですか?」
「保護者みたいなものじゃない」
ちくっと胸が痛む。保護者、か。
「違いますよー、もう。子ども扱いしないでください!」
「はいはい。じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
ドアを閉めて行ってしまった葉月さんのことを考えると溜息をつく。保護者ってことは恋愛対象でもなんでもなくて、葉月さんにとって明日からの旅行は子供と遊びに行くだけ。私がドキドキしていたとしても彼は何とも思っていないということ。葉月さんは凄く良くしてくれているのはわかる。けど…。
物足りないと感じてしまう。
同じ気持ちになってほしいなんて、我儘なのかな。
「恋愛って、難しい…」
こういう時に頼れる友達がいれば。ラインのトーク画面を開いても送りたいと思う相手がいない。
心の内側をさらけ出したいだなんて何を考えているのと学校に行っていた頃の自分なら言うだろう。周りの空気を読んで、周りに溶け込んで、できるだけ意見は言わず逆らわず。それが私だった。グループに溶け込むために、追い出されないように必死だった。でもその必死さがいつしか自分の首を絞めていることに気づいてしまう。そうして私は…。ぎゅっと目をつぶって考えないようにする。