7
じろりと睨んでもどこ吹く風と言った拍子で、できた三つ編みを緩くほぐしている。こうすることでこなれ感がでるらしい。
「はい、できた」
「本当に手先器用ですよね」
「ありがと。まあただの器用貧乏ってだけだよ」
「世渡り上手ともいうんじゃないですか?」
「上手いこと言ってくれるね」
葉月さんが嬉しそうに笑っている。それだけで幸せな気持ちになるし、笑顔が見られたらそれで良いやと思ってしまう。ここのところ私の頭の中には葉月さんばかりだ。
いてもいなくても葉月さんの事ばかり考えてしまう。部屋にいてもなんとなく葉月さんがいる部屋の方に身体を預けて本を読んでいたりする。この気持ちは…。
「綾菜ちゃん?」
「あっ!えっと、旅行の用意してきます!じゃ!」
貸してもらった文庫本を片手に自分の部屋に戻って勢いよくドアを閉める。
やばいやばいやばいやばい。私、何やってんだろう。絶対変な奴に思われた。
ベットに転がってさっき借りた『たゆたえども沈まず』の表紙を眺める。
「星月夜、か」
ネットで調べた時に出てきた絵は凄く幻想的で綺麗だった。空は渦のように流動的で星の光が黄色くて丸く光っている中、きちんと形作られた月が一際目立つ。その月に釘付けになった。
月がこんなに魅惑的なことを初めて知った。吸い込まれそうになりながら見た星月夜は、晩年ゴッホがいた精神病院で描かれたものだそう。
実物を書いているイメージが強かったゴッホが、こんなに幻想的な作品を描いているのは意外だった。だからこそなのか引き込まれる。もしかしたら彼の目には本当にこんな風に見えていたのかもしれない。そう思うとワクワクせずにはいられない。
「こんな風に見える世界ってどんな世界なんだろう…」
そう思っているとだんだん瞼が重くなっていって眠ってしまった。