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「あ、その前に…」
そう言って葉月さんが取り出したのはキャップ帽だった。群青色の帽子を綾菜に被せて頷いている。
「いきなりどうしたんですか…?」
「日差し強いからね。綾菜ちゃん肌白いから焼けるの勿体無いなあと思って」
「…ありがとうございます」
…今日からこまめに日焼け止め塗らなくちゃ。被せて貰った帽子のツバを下げて葉月さんから顔を隠す。きっと今、顔が赤い。
「…?じゃあいくよ」
「はい…」
様子が可笑しくなった綾菜を心配しながらも葉月さんは自転車を漕ぎ始めた。後ろについて漕ぎ始めると風が気持ちいい。葉月さんから貸してもらった帽子が飛ばされないように右手でぎゅっと頭に押し込める。しばらく漕いでいると家に人が並んでいるのが見えた。
「あそこは何ですか?」
「あれは家プロジェクトっていって、それぞれの家の中にアートがあるんだよ。今日は美術館がメインだから入らないけど、明日行こうね」
「はい!」
家の中にアートってどういうものなんだろう…?不思議だけどワクワクする。暫く景色を楽しんでいると葉月さんが「ここに入るよ」と止まったところには「ANDO MUSEUM」と書かれていた。
「安藤ミュージアム?」
「安藤忠雄の活動や直島の歴史が書いているところなんだ。外側は普通だけど中は打ちっぱなしのコンクリートだから吃驚するよ」
そう言われて入ってみると、確かに外側の木造家屋とは違って中はコンクリートでひんやりしている。コンクリートのひんやりした空間にいると、少し出ていた汗もだんだん引いてきた。葉月さんの後について展示を見ていると写真やスケッチ、模型もあって見所が沢山ある。一つ一つの文章を読んだり、模型を観察している綾菜の傍らで葉月さんは綾菜の進むスピードに合わせながら隣を歩いてくれていた。