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「なに?」
「なんか旅慣れしてるなあと思って」
「そりゃバックパッカーしてるしね。状況に即して対応しないと」
「そうですよね…」
状況に即して対応、か。行かなくなった学校のことを思い出した。状況に即して対応していたつもりだったんだけどなあ。ふっとやるせない気持ちになる。
「綾菜ちゃんは、十分頑張ってると思うよ」
そうして優しく手を握って歩き始めた葉月につられて綾菜も歩き始める。なんでこの人はこんなにも優しいんだろう。たった数週間の付き合いで、それまでいた暗いところから掬い上げてくれる。出来ないことは手伝ってくれて、興味があることには付き合ってくれる。今もこうしてうつむき加減になったのを見たからか引っ張ってくれる。
―優しいって、温かい
ホテルに着くと2部屋予約を取ってくれていたので、夕食の時間までそれぞれの部屋で過ごすことになった。備え付けのベットに寝転んで今日一日を振り返る。一つ一つ思い出す度、葉月さんの言動に顔が真っ赤になる。
「もう、どれだけ振り回せば…」
文句を言いつつも楽しい。
そうだ、ポストカードの文章書かないと。
取り出したエル・グレコの『受胎告知』に微笑みつつ、今日一日とても楽しかったこと、そして葉月さんといる時の気持ちを素直に書いた。読み返すとそれは人生初のラブレターのようで恥ずかしくなる。渡すときに葉月さんの顔が見れなくなることは間違いない。
「葉月さんは何を書いてくれるんだろう…」
コンコン
玄関のドアからノックが聞こえる。開けるとそこには葉月さんがいて夕食を誘いに来てくれたようだ。
「あれ、書き終わったの?」
手元に持っていたポストカードを覗かれそうになって、後ろ手に隠す。
「まだ駄目ですよ」
「気になるなー」
「最後のお楽しみです!」
「そうだね。それ置いてきな」
「はーい」
ポストカードを片付けて夕食を食べに行くと、バイキング形式だった。