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―また、行けなかった。
1学期の終業式に出られなかった私のもとに家が近所だという理由だけでクラスメイトから連絡紙が届けられるのだろうか。それとも担任の先生が来るのだろうか。そんなことをぼんやり思いながらカーテンの隙間から見える青空を眺める。
高校2年生。なぜか学校に行けなくなってしまった。理由もきっかけも自分ではわからない。わかろうとしていないだけかもしれない。ただ、学校に近づくにつれて腹痛が酷くなって動けなくなったり、頭痛が酷くて倒れ込みそうになったりする。1年生の時は行けていたのになぜ…と両親はあれこれ気を病んで色んな病院で検査をしたが、結局何もわからずじまいだった。
心療内科への受診を促されたものの、もうこれ以上関わらないで欲しいという気持ちが強くて部屋の中に引きこもるようになった。暗い部屋の中で唯一光るパソコンの光。そこでゲームや動画、小説を読んでは日がな一日過ごしている。正直飽きが来ることはまったくなくてこのままずっと過ごしていけるのではないかと思う。
両親には凄く心配をかけているのはわかる。だけど待って欲しい。ただ、私は待って欲しいのだ。何を?と聞かれるとわからないけど、私にとっては今進んでいく時の流れが性急すぎてなにもかもがついていけない。ひと息つきたい。そう思っているうちに2年生の1学期が終わった。
―コンコン
「綾菜?担任の先生が見えているけど…」
「…会いたくない」
「そう…」
母は私の返事を聞くと申し訳なさそうに担任の先生とやり取りする声が聞こえる。母は私のせいでリモートワークの仕事で済む会社に転職したと両親が話しているのを耳にした。私のせいで大好きな仕事を手放してしまった母。私のせいで両親が言い争う回数が増えた。私のせいで、私のせいで…。積み重なる不安に両腕で自分を抱え込む。
―何もかも自分のせいだ。
担任の先生が帰ったのか家の中がまた静かになる。母はテレビやラジオをつけない。いつもイヤフォンをつけて音楽を聴いている。だからか、この家は2人いてもいつも静かだ。その静かな中に時折キーボードの音が聞こえる。
この家はいつも静かで活気がない。