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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
7.「トリプルシックスの秘密」編
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086 処刑人ケリー

「くしゅんっ」


 可愛らしい音を立てて、咲希がくしゃみをした。


「咲希ちゃん、大丈夫? 風邪かな?」


「違うと思うわ。ただ何となく、寒気がしただけよ」


 その側で、陽菜は彼女を心配している。先ほどの軽い衝突の痕跡は、もうどこにもなかった。


 能見たちのチームは今、菅井たちが拠点にしているアパートの一階に来ていた。もう一方のチームよりも先にカメラの破壊を終えたため、合流地点であるこの場所に戻ってきている、というわけである。


 エントランスに立ち、四人は仲間たちの帰りを今か今かと待っていた。



 同時刻。


 談笑しながら道を進む芳賀たちの前に、紺色の影が降り立った。


 アパートの屋上から飛び降りてきたのだろう。着地の衝撃に難なく耐えているところを見るに、その身体能力は人間のそれを遥かに上回る。


 紺の影が、ダン、と地面を蹴り飛ばす。目にも止まらぬ速さで駆け、怪人は芳賀たちの眼前にまで迫った。


 無警戒だったわけではないが、不意を突かれたことは否定できない。その刺客はどこからともなく、何の予兆も感じさせずに現れたのだ。


 敵の気配を察知し、菅井は身構えた。しかし、その姿を視認できない。


(……速い!)


 相手の移動速度は尋常ではなかった。そして、目で捉えられない敵に対しては、彼の停止能力は十分に機能しない。



 仲間を守るべく、芳賀がとっさに動いた。前に出て、体を張って盾になろうとする。


 芳賀の回避能力の場合、正確には目で追えなくとも「これは避けるべき攻撃である」との認識ができれば力は発動する。微かに見える残像を頼りに、彼は高速で放たれた蹴りをかわしてみせた。


 ゆらゆらと変則的に体を揺らし、トリプルセブンが敵を翻弄する。彼には普通の攻撃が通用しないことを悟ったのか、紺色の影は後ろへ跳び退った。


 高速移動をやめた刹那、その姿が垣間見える。


 三葉虫を思わせる、ネイビーブルーの硬質な皮膚。丸みを帯びたボディーライン、胸の膨らみといった女性的な特徴。両手には鋭い爪がそなわっている。


 彼女の姿を見るやいなや、唯と和子は恐怖に目を見開いた。


 トリプルゼロ――小笠原美音が殺されたあの日、自分たちと彼女は戦った。そして、圧倒的な敗北を喫したのだった。



「久しぶりね、お嬢ちゃんたち。それから、トリプルナインのお兄さんも」


 四人目の管理者は、妖艶な笑みを浮かべた。和子、唯、菅井の順に視線を投げかける。


「トリプルセブン、トリプルスリーの二人は初めまして。私はケリーよ」


「……お前も管理者の一人か。俺たちがカメラを壊すのを、邪魔しに来たってわけか?」


 唯と和子を庇うように立ち、荒谷が問いかける。対して、ケリーはからからと笑った。


「そうね、確かにそれも目的の一つだわ。でも、本命は別にあるの」


 笑みを消し、ケリーが体を沈める。次の瞬間、彼女の体は砲弾のごとく飛び出していた。


「――裏切り者の四人を含む、ナンバーズの処刑よ!」



 女性陣の雰囲気が和やかになったことで、武智もようやく話しやすくなったようだ。能見の肩を叩き、にっと笑いかけてくる。


「カメラ壊すのを手伝ってもろて、今日はありがとうな。改めて、今後もよろしく頼むで」


「こちらこそ、よろしくな」


 能見もそれに応じる。


 以前こそ対立していたが、今の武智は心を入れ替え、他の被験者を守るために戦う決意をしている。そんな真っ直ぐな彼のことなら、素直に信じられた。


「いつか必ず管理者を倒して、奴らの企みを阻止しよう。そして、この街から脱出するんだ」


「せやな」


 エントランスから青空を見上げ、武智が頷いた。雲一つない日本晴れだが、海上都市を囲む防波壁により、美しい空は四角く切り取られている。


「あいつらは、ここに閉じ込めた人たちを怪物に変えるつもりや。そんなこと、絶対にさせへん」


 すると、上空を黒い影が横切ったのが見えた。


 何だろう、と目を凝らそうとしたが、その必要はなかったようだ。飛行体はこちらに向かって、ぐんぐん高度を下げてくる。


 アパートの正面へ降り立った荒谷は、慌てた様子だった。


「……管理者が攻撃してきた。お前たちも迎撃に向かってくれ」


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