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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
7.「トリプルシックスの秘密」編
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083 紫電の謎

 さて、芳賀率いるグループと、菅井たち四人は和解した。両勢力は手を取り合い、打倒管理者のために動き出した。


 スチュアート、アイザックを撃退し、和子と唯を助け出すことにも成功した。けれども、状況はまだ予断を許さない。菅井たちの支配下にあるエリア、そこに設置された監視カメラを破壊しないことには、また彼らが襲われないとも限らないからだ。


 したがって、両グループにとって初めての共同作業は、カメラの破壊ということになった。二チームに分かれ、一方がエリアの北側、もう一方が南側を探索する。



 北側を担当するのは、以下の四名である――能見俊哉、花木陽菜、綾辻咲希、それから武智将次。


 以前、陽菜と荒谷がタッグを組み、カメラを破壊して回ったことがあった。要領はそれに似ている。予知能力を使い、陽菜が監視カメラのおおよその位置を特定。そこに能見が電撃で、武智が風の刃で仕掛け、破壊していくという寸法だ。


 なお、咲希は男性陣のどちらかの力をコピーし、適宜フォローすることになっていたのだが。


「あんたは黙って見てなさい。あたしがやった方が、出力は高くなるわ」


 手から稲妻を放とうとした能見を制し、咲希は前に出た。すっと突き出した手のひらから、彼のものと同じ紫電が撃ち出される。壁と同じ白色に塗られたカメラは、たちまちスパークに貫かれた。


「これで一丁上がりね」


 ショートヘアの後ろ髪をかき上げ、咲希は「ふふん」と得意げに笑った。



 彼女の能力は、単に相手の力を真似るだけではない。オリジナルよりも威力を増幅し、さらに強力な攻撃を放てるのだ。「あたしがやった方が、出力は高くなる」とは、つまりそういうことである。


 見つけ次第、彼女は次々にカメラに雷撃をぶつけていく。完全に出番を奪われた格好になり、能見はぼやいた。


「……俺、帰ろうかな」


「ダメよ。あたしの能力は、近くにいる相手しかコピーできないんだから。遠くに行かれたら困るわ」


 振り返り、咲希はびしっと指を突きつけてきた。


「冗談だって」


 もちろん、能見も本気で帰りたかったわけではない。


 監視カメラを壊されて、スチュアートら管理者が黙っているはずもないからだ。彼らが妨害してきたときに備え、二チームとも十分な戦力を用意しておく必要がある。



「おい、ちょっと待てや」


 そこへ割り込んできたのは、先ほどまで黙々と作業に取り組んでいた、武智である。ナイフを振るう手を止めて、胡散臭そうな目で咲希を見やる。


「お前、何でトリプルシックスの力ばっかりコピーしてんねん。ちょっとくらい、俺の力も使えや」


「……は? あんたの力を借りるなんて、死んでもごめんなんだけど」


 途端に、彼女の視線が鋭くなった。声音も心なしか冷たくなっている。


「匠を傷つけたあんただけは、まだ許してないから」


 咲希が怒るのも当然である。


 最初に菅井たちと交戦した際、荒谷は武智に斬りつけられ、腹部に怪我を負った。いくら反省し、罪を償おうとしているからと言って、恋人をひどい目に遭わせた男を簡単に許せるはずもない。


「いや、その節はほんまにすまんかった。前にも何度も謝ったやろ?」


「誠意が足りないのよ、誠意が!」


「そんな無茶苦茶な。俺にどうしろって言うねん」


 管理者に従わされていた頃のことを出されると、武智はどうにも反論できなかった。咲希の強気なペースに呑まれ、たじたじになっている。


 そんなやり取りを横目に、能見と陽菜は顔を見合わせ、苦笑した。



「たぶん、ここで最後くらいです」


 陽菜が指さしたのは、アパートの上部。


 二か所に設置されたカメラの、左方を咲希の稲妻が、右方を武智のかまいたちが粉砕した。それをもって、四人の果たすべき任務は終了となる。


「何てことなかったわね。管理者にも邪魔されなかったし、案外簡単じゃない」


 ふう、と息を吐き出し、咲希は能見へ歩み寄ろうとした。


「ありがとね。力、貸してくれて」


「別にいいぜ。貸して減るもんじゃないしな」


 二人が微笑み合ったのも束の間だった。突然、咲希の足元がおぼつかなくなる。


「……わ、わわっ」


 前のめりに転びそうになった彼女を、危ないところで能見は抱きとめた。


「大丈夫か?」


「う、うん」


 近距離で肩と腰を掴まれているからか、咲希はやや赤面していた。今のは不可抗力だし、彼女には荒谷というフィアンセがいるのだが、このシチュエーションではどぎまぎせざるを得なかったらしい。


「おかしいな。あたし、どうしちゃったんだろう」


「……もしかして、俺の力を使ったからじゃないか?」


 咲希が立つのを手伝いながら、能見が呟く。



 前にも一度、彼女に自分の力をコピーさせたことがある。


 オーガストを倒すためには、彼に最も有効と思われる雷撃を、最大の威力で叩き込む必要があった。そこで能見の立てた作戦が、「咲希に能力をコピーさせ、倍以上の攻撃力で応戦する」というものだった。


 しかし、トリプルシックスの力を扱うのに、彼女は少々手間取った。雷を見当違いの方向へ飛ばしてしまったり、体に電流を纏わせようとしたら、間違えて自分が痺れてしまったり。失敗のバリエーションは実に豊かである。


 咲希いわく、コピーに失敗したのは初めてだったらしい。「あのときと似たような現象が起きたのではないか」と、能見はほとんど直感的に推測した。


 おそらく、紫電を操るこの力には、何か副作用のようなものがあるのだ。能見自身はそれを克服できていても、別の被験者が力をコピーし、いきなり使おうとすると副作用を受けてしまう。



 能見の持つ力は、きわめて特殊だ。初めは能力をコントロールできず、やみくもに紫電を落としてしまったこともある。雷を操れるらしいことは分かったものの、なぜ彼だけが力を使いこなすのに時間がかかったのか、咲希がそれをコピーしにくいのかは不明である。


 自分に与えられた謎の力について、能見は漠然とした不安を感じていた。


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