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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
6.追憶のトリプルゼロ編
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081 トリプルナインは再起する

 しかし、それは全て能見の作戦だった。


「対オーガスト戦の主戦力だったから」という、いかにも自然に思える口実で、自分と咲希を前線に出す。そして、スチュアートとアイザックの注意を、一瞬だけ菅井と武智へ向けさせる。


 菅井たちが攻撃してくる可能性は、一切考えていなかった。彼らが見せた後悔と贖罪の思いを、能見は信じていたからだ。


 管理者が自分から目を離した隙を突いて、能見は仕掛けた。咲希に目で合図し、同時攻撃を放つ。


「……今だ。二人を助けるぞ!」


「任せなさい!」


 能見の上げた雄叫びに、咲希も明るく応じる。彼の意図を察し、能力のコピーは済ませてあった。

 二人は片手を前へ突き出し、一筋の紫電を射出した。



「何⁉」


 完全に不意を突かれ、スチュアートは動揺した。けれども、人質を抱えているがために身軽に動けない。


 回避行動を取る間もなく、電流が直進し、彼の胸を撃つ。致命傷ではないものの衝撃を殺し切れず、深緑の怪人はよろめいた。


 咲希の繰り出した電撃も、アイザックの胸部を捉えていた。紫の紫電が流し込まれ、怪人は苦悶の表情を浮かべる。


「お前ら、舐めた真似を……」


 彼が備える力は、能見の放つ紫電と酷似している。それゆえに、電撃への耐性がある程度あったのかもしれない。スチュアートほど怯むことはなく、すぐさま反撃に移ろうとした。



「そうはさせないぜ!」


 が、側頭部に強い衝撃を受け、結局は不発に終わる。


 飛行能力を発動した荒谷が、急降下の勢いを加えたキックを叩き込んだ。頭部を押さえ、アイザックはふらふらと後ずさった。


「大丈夫か?」


 静かに着地し、荒谷が唯を抱きかかえる。


 さるぐつわを外してやると、彼女は心なしか顔を赤らめているように見えた。異性からお姫様抱っこされるなんて、彼女には初めての経験だった。


「……どうして助けてくれたの? 私たちは、あなたの命を奪おうとしたこともあったのに」


「菅井たちから事情を聞いてな。それより、早くここから離れるぞ」


 同じように飛行能力をコピーした咲希も、和子の元へ飛んで行った。人質にされていた二人を連れ、カップルは低空飛行で素早く飛び去った。



 体勢を立て直したスチュアート、アイザックは、遠ざかっていくナンバーズたちの姿を憎々しげに見送っていた。能見の機転により、彼らはまんまと人質を奪われた格好になる。


「やってくれるじゃないか」


 もはや、菅井たちとの交渉が決裂したのは明らかだった。彼らに服従の意志はなく、あくまでも能見たちとともに戦い抜く覚悟を決めていた。


 こうなれば、残りのナンバーズだけでも駆逐してやる――そう考えたスチュアートだったが、ふと異音がして動きを止めた。


 見れば、胸部に装着していた小型武装デバイスが、僅かに火花を出している。先刻、能見の攻撃を受けた際に損傷したのかもしれない。


「アイザック、あとは頼んだよ。私はデバイスのメンテナンスをしなければならない」


 言うが早いか、全身に装着した逆三角形の機器が、ランプを赤く発光させる。一瞬ののちに光学迷彩で姿を隠し、スチュアートは戦場から去った。



「……ったく、人使いの荒い奴だぜ」


 悪態を吐き、紅の怪人は能見たちを見回した。見たところ光学迷彩は通常通り機能するようなのに、一人だけ退却を決め込んだスチュアートに腹を立ててもいた。


 今この場に残っているのは、能見、陽菜、芳賀、そして菅井と武智である。なお荒谷と咲希には、人質にされていた和子・唯を安全な場所まで移動させ、手当てをするという役目があった。


「クソが。どいつもこいつも、本当に使えねえな」


 五人のナンバーズを睨み、アイザックが咆哮する。全身から真紅の稲妻がほとばしった。


「俺たちに刃向かうのなら、お前らナンバーズは全員潰す。トリプルゼロと同じ末路を辿り、逆らったことを地獄で後悔するがいい!」



(……すごい)


 能見と荒谷、咲希による救出劇を、菅井は呆然として眺めていた。


 自分と武智だけの力では、和子と唯を救い出すことはできなかっただろう。だが、彼らは成し遂げた。過酷な運命に打ち勝ち、誰も犠牲にせずに彼女たちを助けた。


 いや、今回だけに限った話ではない。武智があれほど苦戦した管理者、オーガストをも能見たちは倒してみせた。能見と咲希の二人による強烈な雷撃で、彼の防御を突破してみせた。


(もしかしたら、彼らとなら本当に、運命を変えられるのかもしれない。管理者の支配に屈するしかなかった現実を、変えられるかもしれない)



「大丈夫だ」


 またしても肩を叩かれ、菅井は我に返った。はっとして顔を上げると、そこには微笑をたたえた能見がいた。


「お前の仲間は無事に助けた。あとは、管理者を倒すだけだぜ」


「……ああ。そうだな」


 菅井の目に、再び闘志が燃え上がった。力強く頷き、彼も能見の隣へ並び立つ。


 武智、陽菜、芳賀もそれに倣い、五人の戦士がアイザックを迎え撃たんとする。


「俺たちはもう一度やり直す。この街の人々を解放するために、お前たちを倒す!」


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