072 異形の襲撃者たち
「トリプルゼロは、ナンバーズの中でも特に強い力を持っていた。前から目をつけてはいたんだが、中規模のグループを率いるようになると、いよいよ面倒になりそうだったのでね。処刑させてもらったよ」
「……ふざけんな。何が『処刑させてもらった』や」
怒りと悲しみが心の中でぐちゃぐちゃに混ざって、武智は雄叫びを上げて斬りかかった。
「美音さんの仇は、俺が討つ!」
「やれやれ、喧嘩っ早い連中だな」
失望したように首を振り、スチュアートは再び、全身に装着した小型デバイスを起動した。
「――格の違いを思い知らせてあげよう」
この機器は彼の意志に反応して動作し、任意の攻撃パターンを繰り出すことができる。今回スチュアートが選んだのは、光学迷彩ではなく、立体映像の投影だった。
「な、何や⁉」
彼そっくりの立体映像が六体も出現し、敵を取り囲む。予期せぬことに、武智は戸惑った。
細部まで作り込まれた映像を見て、彼はてっきり本物かと思った。つまり、スチュアートが分身したものと思い込んだのだ。
さらに驚くべきことに、立体映像はそれぞれが独自に動くことができた。本体であるスチュアートとは別に、滑らかな動きで武智へ飛びかかる。
「うわっ」
鋭い爪が振るわれ、眼前へ迫る。武智は慌てて横に転がり、分身の攻撃をかわした。
「くそっ。負けてたまるかい」
起き上がりざまに素早くナイフを振るい、風の刃を飛ばす。放たれたかまいたちは、確かに分身のうちの一体を捉えたかに見えた。
だが、刃はその体をすり抜け、向こう側の壁に虚しく当たる。このときになって、武智はようやく「この分身は実体がない、目くらましだ」と気がついた。
「……貴様の相手は我だ」
しかし、気づくのが少々遅すぎたと言えるかもしれない。
いつの間にか、彼の背後には黒い影がたたずんでいた。殺気を感じ、はっと振り向いた武智へ、漆黒の怪人が襲いかかる。
彼の首のナンバーを一瞥し、怪人は静かに言った。
「貴様らナンバーズは、このオーガストが始末する」
武智が果敢に挑んでいる間、他のメンバーが何もしなかったわけではない。
「よくも……よくも美音さんを!」
激情に任せ、菅井はスチュアートへ吠えた。奥歯をぎりぎりと噛みしめ、怪人を睨みつける。
指を鳴らし、リーダーの仇の動きを封じようとするも束の間、新たな敵が彼を襲った。
「があっ」
殺気を感じ、咄嗟に伏せたが避け切れない。左方から放たれた赤い稲妻が、菅井の肩を撃ち抜いていた。
肉が焼かれる痛みと、体が痺れる感覚が同時に押し寄せてくる。肩を押さえてうずくまる菅井を、現れたアイザックはにやにやと眺めた。
「ご自慢の能力も、腕が使えなきゃ意味ねえよなあ?」
(こいつら、俺たちの力を知っているのか⁉)
激痛に耐え、菅井はどうにか意識を保っていた。
彼の能力は、指を鳴らす動作をトリガーとして発動される。そこに目をつけて、あの紅の怪人は菅井を容易く無力化した。
自分たちの能力を、街の管理者がそこまで把握していたとは予想外だった。
『トリプルゼロは、ナンバーズの中でも特に強い力を持っていた』
先刻、スチュアートはこう言った。「ナンバーズ」が何を意味する語なのかは分からないが、奴らはおそらく、被験者一人一人の力量を正確に知っている。
この襲撃は、綿密に計画されたものだったのかもしれない。トリプルゼロ――小笠原美音を消し、そして自分たちをも排除するために、何重にも罠が張り巡らされていたのかもしれない。
楽しかったはずのダンスパーティーは、今や血塗られた戦場へと変わっていた。皆がステップを踏んでいた地面には美音の亡骸が転がり、歓声の代わりに悲鳴が飛び交う。
異形の襲撃者たちの強さは圧倒的で、それがますます菅井を絶望へ追い立てた。
(……無理だ。無理に決まってる。リーダーでも敵わなかった相手に、ましてや俺たちが勝てるはずがない)
ゆっくりと近づいてくるアイザックを前に、彼は顔面蒼白になっていた。




