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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
6.追憶のトリプルゼロ編
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072 異形の襲撃者たち

「トリプルゼロは、ナンバーズの中でも特に強い力を持っていた。前から目をつけてはいたんだが、中規模のグループを率いるようになると、いよいよ面倒になりそうだったのでね。処刑させてもらったよ」


「……ふざけんな。何が『処刑させてもらった』や」


 怒りと悲しみが心の中でぐちゃぐちゃに混ざって、武智は雄叫びを上げて斬りかかった。


「美音さんの仇は、俺が討つ!」


「やれやれ、喧嘩っ早い連中だな」


 失望したように首を振り、スチュアートは再び、全身に装着した小型デバイスを起動した。


「――格の違いを思い知らせてあげよう」



 この機器は彼の意志に反応して動作し、任意の攻撃パターンを繰り出すことができる。今回スチュアートが選んだのは、光学迷彩ではなく、立体映像の投影だった。


「な、何や⁉」


 彼そっくりの立体映像が六体も出現し、敵を取り囲む。予期せぬことに、武智は戸惑った。


 細部まで作り込まれた映像を見て、彼はてっきり本物かと思った。つまり、スチュアートが分身したものと思い込んだのだ。


 さらに驚くべきことに、立体映像はそれぞれが独自に動くことができた。本体であるスチュアートとは別に、滑らかな動きで武智へ飛びかかる。



「うわっ」


 鋭い爪が振るわれ、眼前へ迫る。武智は慌てて横に転がり、分身の攻撃をかわした。


「くそっ。負けてたまるかい」


 起き上がりざまに素早くナイフを振るい、風の刃を飛ばす。放たれたかまいたちは、確かに分身のうちの一体を捉えたかに見えた。


 だが、刃はその体をすり抜け、向こう側の壁に虚しく当たる。このときになって、武智はようやく「この分身は実体がない、目くらましだ」と気がついた。 



「……貴様の相手は我だ」


 しかし、気づくのが少々遅すぎたと言えるかもしれない。


 いつの間にか、彼の背後には黒い影がたたずんでいた。殺気を感じ、はっと振り向いた武智へ、漆黒の怪人が襲いかかる。


 彼の首のナンバーを一瞥し、怪人は静かに言った。


「貴様らナンバーズは、このオーガストが始末する」



 武智が果敢に挑んでいる間、他のメンバーが何もしなかったわけではない。


「よくも……よくも美音さんを!」


 激情に任せ、菅井はスチュアートへ吠えた。奥歯をぎりぎりと噛みしめ、怪人を睨みつける。


 指を鳴らし、リーダーの仇の動きを封じようとするも束の間、新たな敵が彼を襲った。


「があっ」


 殺気を感じ、咄嗟に伏せたが避け切れない。左方から放たれた赤い稲妻が、菅井の肩を撃ち抜いていた。


 肉が焼かれる痛みと、体が痺れる感覚が同時に押し寄せてくる。肩を押さえてうずくまる菅井を、現れたアイザックはにやにやと眺めた。


「ご自慢の能力も、腕が使えなきゃ意味ねえよなあ?」



(こいつら、俺たちの力を知っているのか⁉)


 激痛に耐え、菅井はどうにか意識を保っていた。


 彼の能力は、指を鳴らす動作をトリガーとして発動される。そこに目をつけて、あの紅の怪人は菅井を容易く無力化した。


 自分たちの能力を、街の管理者がそこまで把握していたとは予想外だった。


『トリプルゼロは、ナンバーズの中でも特に強い力を持っていた』


 先刻、スチュアートはこう言った。「ナンバーズ」が何を意味する語なのかは分からないが、奴らはおそらく、被験者一人一人の力量を正確に知っている。


 この襲撃は、綿密に計画されたものだったのかもしれない。トリプルゼロ――小笠原美音を消し、そして自分たちをも排除するために、何重にも罠が張り巡らされていたのかもしれない。



 楽しかったはずのダンスパーティーは、今や血塗られた戦場へと変わっていた。皆がステップを踏んでいた地面には美音の亡骸が転がり、歓声の代わりに悲鳴が飛び交う。


 異形の襲撃者たちの強さは圧倒的で、それがますます菅井を絶望へ追い立てた。


(……無理だ。無理に決まってる。リーダーでも敵わなかった相手に、ましてや俺たちが勝てるはずがない)


 ゆっくりと近づいてくるアイザックを前に、彼は顔面蒼白になっていた。


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