068 トリプルゼロの真実
「……共に戦え、だって?」
ややあって、能見がオウム返しに言った。自分の中でふつふつと怒りが湧き上がるのを、彼は感じていた。
「俺たちの目の前で、お前は愛海さんを撃ち殺したんだぞ。そんな奴らから『手を組んでほしい』って言われて、納得できるかよ」
「……愛海さんというのは、あの桃色の怪人に変わった人のことか」
僅かに顔を上げてから、菅井は再び頭を下げた。自らの所業を、心から悔やんでいる様子だった。
「彼女を手にかけたことについて、言い訳するつもりはない。全ては俺たちのせいだ。管理者からの命令に従い、俺たちは任務を遂行してしまった」
「もし僕たちと手を組めば、当然、管理者とも手を切ることになるよ。その覚悟はあるんだろうね」
そこで芳賀が口を挟んだ。が、思い直したのか質問を変える。
「いや、それよりも聞きたいことがある。なぜ君たちは、管理者の言いなりになることを良しとしていたんだい?」
「脅されていたんや」
答える武智の声は、恐怖に震えていた。
「言うことを聞かんかったら、先代リーダーと同じように殺す。そういう風に、管理者から脅されとったんや」
「最初は、俺たちをまとめ上げていたのは菅井さんやなかった。トリプルゼロ――小笠原美音さんやった」
淡々とした武智の語り口に、能見ら三人はじっと耳を傾けていた。
「美音さんは、俺らとは比較にならんくらい強かった。暴風や落雷、自然発火……とにかく、ありとあらゆる自然現象を自在に起こすことができた。戦いを通して仲間になってからというもの、俺らは皆、美音さんを慕っとった。彼女は俺たちのエースであり、憧れの存在やった」
トリプルワンの陽菜から、トリプルナインの菅井まで。一から九までの数字を持つナンバーズとは、三人も既に出会ったことがあった。能力も大体把握している。だがトリプルゼロこと、小笠原美音なる人物のことは初耳だった。
残る一人のナンバーズは、どこの派閥に属しているのだろう――そう思ったこともあったけれども、実際のところ、彼女は菅井らのグループにいたようだ。芳賀が能見や陽菜、荒谷と咲希を味方に引き入れたように、街の西側には、美音を頂点としたグループが形成されていた。
「けど、あの日管理者が現れて、美音さんを倒した。それで俺らは、奴らに従うしかないと思ったんや」
少なくとも「あのときは」な、と武智が補足する。殺されるかもしれないという恐怖に呑み込まれ、冷静な判断ができなくなっていたということか。
「……失礼な質問かもしれないけど」
芳賀が話の腰を折る。
「聞く限りでは、小笠原という人はものすごく強い力を持っているようだ。いや、自然現象を自由に操れるとなると、下手をすればナンバーズの中で最強かもしれない。そんな彼女が、なぜ管理者に不覚をとったんだい?」
「――不意打ちだったんだ」
しばらく黙り込んでいた菅井が、重い口を開いた。
「スチュアートと名乗る管理者に、後ろから刺された。能力を使う暇も与えられなかった」
その名前を聞くのは二度目だった。
最初はオーガストの口から。次にはアイザックの口からである。彼らから聞いた話を総合すると、スチュアートはこのデスゲームのルール説明を行い、また他の管理者に色々と指示を出しているようだ。
管理者の中でも、彼は司令塔的なポジションについているらしい。そのスチュアートが、最強のナンバーズである小笠原美音を殺したのか。
そして菅井は、あの日のことをぽつりぽつりと語り始めた。




