067 突然の訪問者
「……ト、トリプルセブン様、大変です!」
ノックもせず、急に玄関ドアが開かれる。息せき切って部屋に駆け込んできたのは、二人の男だった。
一人は短髪で、もう一人は丸眼鏡をかけている。以前、生前の板倉について問いただしたことのある部下たちであった。
急に彼らが現れたので、芳賀も、能見ら四人も驚きを隠せていない。
「どうしたのかな。何かあったのかい?」
「それが、この間の奴らが二人、うちのテリトリーへ侵入してきて」
「リーダーに合わせろ、話がしたいって言って聞かないんすよ。戦うつもりはないらしいんすけど、本当かどうか」
男たちは興奮した様子で、身振り手振りを交えて状況を説明した。だが、大体の事情を察するにつれ、芳賀の表情は硬くなっていった。
「一応聞くけど、その侵入者たちのナンバーは?」
「『444』と『999』でした」
「……そうか、ありがとう。彼らへの対処は僕に任せてくれ」
トリプルフォー、武智将次。
トリプルナイン、菅井颯。
彼らは愛海の命を奪い、管理者へ味方するナンバーズたちだ。敵の陣地へ正面から乗り込み、話し合いを望むとは一体、どういう風の吹き回しなのだろうか。
下がって良いよ、と促し、部下を退室させる。それから芳賀は、四人の仲間を見回した。
「噂をすれば何とやら、だね。まさか、向こうから訪ねてくるとは思わなかった」
「どうするつもりだ?」
能見に問われ、芳賀は少しだけ考えた。
「このまま放っておいて、好き勝手に暴れられても困る。とりあえず、用件だけでも聞いてみようと思う」
「俺は賛成だぜ。あいつらと手を組めないかって案が出ていたところだし、ちょうど良い。話し合いの場を設けるには絶好の機会だ」
正確には「案が出た」というより、発言した本人が「案を出した」のだが。
能見や陽菜に反対されても、荒谷はまだ希望的観測を諦めていなかったらしい。腰を上げようとした彼を、芳賀はしかし、手で制した。
「……気持ちは嬉しいけど、荒谷と綾辻さんにはここに残ってもらいたい」
「はあ? 何でよ。あたしたちの力は必要ないってわけ?」
咲希は釈然としていない。「そういうわけじゃない」と芳賀は首を振った。
「菅井たちは常に四人一組で行動していた。けど、今こっちに赴いているのは、そのうち二名のみ。話し合いをするふりをして、残る二人が攻撃してこないとも限らない」
「つまり、陽動作戦の可能性があるってこと?」
「そういうことさ」
小さく頷き、芳賀は能見と陽菜に目くばせした。一緒に連れて行くメンバーは彼ら二人に決めたようだ。
もしも菅井たちと協力関係を築く運びになった場合、避けて通れないのが感情の問題だ。愛海を手にかけた彼らを、自分たちは仲間として認められるのか。背中を預け、ともに管理者と戦うことができるのか。
能見も陽菜も、そして芳賀も、愛海とは親しい間柄だった。私情のもつれはなるべく早期に解消したい、というのがリーダーの本音である。
「君たちはここに待機して、万が一、他の勢力が攻めてきたときのために備えてほしい」
「分かったわ」
「……それじゃ、僕たちも行こうか」
咲希と荒谷をすぐに納得させた芳賀には、やはりリーダーの素質があると言えるだろう。能見、陽菜を伴って、彼は部屋を出た。
「ああ、行こう」
反対する理由は、能見には特になかった。菅井たちに何か言い分があるのなら、聞くだけ聞いてやればいい。手を組むかどうかは、それから判断しても遅くはない。
もし騙し討ちを仕掛けるつもりなら、返り討ちにするまでだ。一度戦って、相手の手の内は分かっている。前回のように一方的にやられるつもりはない。
あのとき能見は、菅井の力で身動きを封じられ、武智の放った風の刃によって怪我を負った。かなり強力な連携攻撃であったが、彼らに弱点がないわけではない。
おそらく菅井は、一度に一つの対象しか動きを止めることができない。能見と陽菜、それぞれに対して一回ずつ指を鳴らし、その動作をトリガーとして彼は能力を発動した。複数の対象へ干渉できるのなら、二人同時に捕らえていたはずだ。
したがって、対抗策はシンプルである。菅井が力を使う素振りを見せたら、散開し、狙いを絞らせないようにすればいい。仮に一人が動けなくなったとしても、残り二人で猛反撃すれば勝機はある。菅井の能力だって、さほど長い時間は効力が持続しないはずだ。
問題は、陽菜がどう思っているかである。隣を歩く彼女を、能見は不安そうに盗み見た。
アイザックと対峙したときも、陽菜は愛海とのことを思い出し、泣いてしまっていた。いまだに悲しみを癒せていない彼女が、菅井たちとの協力を素直に受け入れるとは思えなかった。
アパートの外に出て少し歩くと、彼らはいた。
「やあ、来てくれたか。呼び出しに応じてくれて、感謝しているよ」
「そいつはどうも」
菅井の笑顔はどこかぎこちなかった。「胡散臭いな」と思いつつも、能見は申し訳程度の礼儀を示す。
けれども、確かに芳賀の部下が報告した通り、むやみに戦おうというつもりはないらしかった。菅井も武智も得物を持っておらず、無防備に立っているだけだ。
「リーダー、こいつらまだ疑っとるで。もっと誠意を見せんと駄目や」
能見たちの視線に気づいたのか、武智は顔をしかめた。両手を上げ、抵抗する意思がないことを示す。すぐさま、菅井も彼に倣った。
「それで、何の用だい?」
一応は二人を信じることにして、芳賀はさっそく本題に入った。
「どうやら戦う気はないみたいだけど、わざわざ僕のテリトリーまでやって来た理由を聞かせてほしいな」
「……分かった。単刀直入に言おう」
呟き、菅井は出し抜けに膝を突いた。プライドも恥もかなぐり捨て、地面に額がぶつかるほどの勢いで土下座する。
「今までお前たちにしてきたことを、全て謝罪する。その上で、俺たちとともに戦ってくれないだろうか」
「頼む。この通りや!」
リーダーの隣で、同じく武智も平身低頭の姿勢を取った。
呆気にとられ、芳賀はぽかんと口を開けていた。




