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サウザンド・コロシアム  作者: 瀬川弘毅
5.「デスゲームの真相」編
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065 俺は彼らと手を組めるのか

「もー、心配したんだからね、匠」


「……咲希、あんまりベタベタしないでくれないか? 皆の視線が痛い」


 翌日、五人は芳賀の部屋に集まっていた。


 荒谷へしなだりかかり、咲希は目をハートにしている。対して、荒谷は迷惑がっている。円になって座った五人の中で、彼らだけが浮いていた。


 彼女が不安がっていた甲斐もなく、荒谷の負った怪我は軽いものだった。胸部に少し包帯を巻いた程度である。



「二人とも、真面目にしてくれ」


 芳賀が咳払いをする。


「分かっているとは思うけど、今日ここに集まってもらったのは、今後の方針を話し合うためだ。僕としては、真剣に意見を出し合いたいんだよ」


 オーガストを倒し、管理者に一矢報いることはできた。自分たちの肉体にどのような処置が施されたのか、ある程度知ることもできた。だが、根本的な問題はまるで解決していない。


 どうやって管理者を倒すか。それが目下の課題だった。



 なお、管理者が配布されたゼリーの問題については、既に手を打った。これまで以上に食料の管理を徹底させ、部下に必要以上の量を食べさせないようにしている。


 この街には他に食べられるものがない以上、ゼリーの摂取は仕方のないことだ。しかしオーガストによれば、その中には怪人化を促進する物質が含まれているらしい。


 ナンバーズ以外の被験者は、皆等しく怪人化のリスクを背負っている。板倉や愛海のように、三桁全てバラバラの数字を持つ者は、いつ異変が起きてもおかしくはない。


 彼らが怪人化する前に管理者を倒し、海上都市から出る方法を聞き出さなければならない。能見たちの戦いには、新たな使命と不明確なタイムリミットが付け加えられた。



「一つ、前から考えていたことがある。菅井たちを味方に引き入れることは、本当にできないのか?」


 咲希から体を離し、汚名返上とばかりに荒谷が意見した。


「何言ってるの、荒谷くん」


 それを聞くやいなや、陽菜は腰を浮かせていた。柳眉を逆立て、彼女は怒りと戸惑いを隠していない。


「荒谷くんはその場にいなかったから、分からないかもしれないけど……あの人たちは、愛海ちゃんを殺したんだよ。私と能見くんの目の前で、大切な友達を奪ったんだよ。そんな人と手を組むなんて、無理に決まってるよ」



「そのことはもちろん理解してるし、愛海さんって人のことも気の毒に思ってるさ」


 けれども、荒谷も譲らない。彼には彼なりの考えがあるのだ。


「でも、いくら管理者を追い詰めたとしても、毎回あいつらに邪魔されたらたまらないだろ? 敵に回すよりは味方につけた方が得策だと、俺は思う」


 陽菜に反論する隙を与えず、荒谷は「それに」と続けた。


「あんたらから聞いた話では、奴らにも何か事情がありそうだったらしいな。百パーセント、管理者側に寝返ったわけではないんじゃないか」



『……悪く思わないでくれ。その化け物を確保しないと、俺たちの立場がなくなるんでね』


 愛海を確保しようと最初に現れたとき、菅井はこう言っていた。


 もしかすると、彼らは管理者に利用されているだけなのかもしれない。能見も陽菜も、そういう印象を受けた。


 しかし、だからといって「菅井たちと手を結べるか」と問われれば、答えはノーだろう。彼らがどういう理由で管理者に与しているのかも分からないのに、信用できるはずもない。



「奴らは強い。特に、菅井の持っている力は絶大だ。敵の動きを止められれば、アイザックとかいう管理者も倒せるかもしれないぞ」


 荒谷は二度、菅井たちを相手に、たった一人で立ち向かったことがある。さすがに多勢に無勢だ。いずれのケースも敗北を喫しているが、それだけに荒谷は、彼らの強さを誰よりも理解していた。


 能見と陽菜も、菅井の停止能力には痛い目に合わされた。芳賀はといえば、武智の放つ風の刃に対応できなかったのが苦い思い出だ。


 その武智の力をブーストしていた清水唯も、侮りがたい存在である。和子はともかくとして、他三人の能力が非常に強いことは明らかだった。


 やはり、彼らもナンバーズなのだ。オーガストが言っていたように、通常の被験者よりも高い戦闘能力を引き出せる。



「だとしても、だ」


 なおも力説しようとする荒谷を遮り、能見は慎重に言った。


「そんなに高い能力を持っているのに、菅井たちが管理者に屈している理由は何なんだ?」


「それは……」


「その理由が分からない以上、すぐに結論を出すのはまずいと思う」


 荒谷が言葉に詰まる。一方、能見は淡々と自説を述べていた。


 菅井たちよりもずっと強い管理者が、影に潜んでいるのではないか。オーガストやアイザック以上の存在が、まだ後ろに控えているのではないか。


 そんな憶測が脳裏をよぎったが、口には出さなかった。むやみに仲間を不安がらせるようなことは、避けたかった。



「……うんうん。能見くんの言う通りだよ」


 すると、機嫌を直した陽菜は何を思ったのか、能見へ体をすり寄せていた。


「あの人たちと一緒に戦うなんて、ありえないもん。私たちだけでも、管理者くらい倒せるし」


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